たった一本のロープのために、翻弄される善人たち。
(2020/9/28にAmazomプライムビデオで鑑賞しました)
戦争ものですが、すでに停戦合意がなされた直後から始まるユニークな作品です。
ネタバレアラート度は低いです。結末を知ってもじゅうぶん楽しめます。
2018年日本公開のスペイン映画。
監督はフェルナンド・レオン・デ・アラノア。
めちゃくちゃ地味な映画なのに、出演者豪華すぎ度☆☆☆☆☆
主演のベニチオ・デル・トロは「ユージュアル・サスペクツ」「スターウォーズ」などのヒット作から、本作のような地味な作品までさまざまな作風に出演してきたハリウッド・スターです。
助演のティム・ロビンスも「ミスティック・リバー」でアカデミー助演男優賞を獲得した名優で、ほかにも数多くの名作に出演しています。
血で血を洗うギャングの抗争や宇宙の命運をかけた戦いなど、数多くの困難に挑んできた名優たちがこの映画で挑むミッション。
それは――
「ロープを調達する」ことです。
は?
いや怒んないで欲しいです。
マジです。
約100分の映画、いろいろなイベントがありますが、メインストーリーは↓です。
「井戸に落ちた死体を引き上げるためのロープを手に入れる」
さあ~観たくなくなってきたかな?どうかな?
・紛争地帯の緊張感を味わいたいけど、グロいシーンとか見たくない
・シリアスのなかにちょいちょい入ってくるブラックユーモアが好き
↑みたいな人におすすめです。
――ネタバレ注意!――
戦争もののくせに戦闘行為はありません。
爆発も銃撃も一切なし。なんと一発の銃弾も発射されません。
邦題考えたひとの苦肉の策度☆☆☆☆☆
上に書いたようにロープを手に入れるというのがメインの筋書きですので、嘘ではない、というかすごく正直な題名です。
ただ、副題のほうは正確ではありません。
本作の舞台は厳密には「戦場」ではないです。
内戦で荒れた紛争地ですが、休戦協定が結ばれた直後の話なのでもう戦場ではありません。
・ではあらすじいってみます。
1995年、バルカン半島のどこか(旧ユーゴスラビアのどこか)。
停戦をうけて戦後復興のために現地入りした国際援助団体「国境なき水と衛生管理団」のメンバーたちは、ある村の井戸に投げ込まれた死体を引き上げようとしています。
いまからたった20年ほど前なのに上水道すら整備されていない田舎です。
(日本生活者でよかった。。。)
近辺の住民の水源が井戸しかないので、死体が腐敗して井戸水が汚染されると感染症のリスクが高まってしまいます。
あと単純に気持ち悪いし……。
ところが、作業中、死体にくくりつけたロープが損耗していたのか切れてしまいます。死体ぼちゃーん。井戸に逆戻りです。
できるだけ早く死体を取り除いて水を洗浄したいので、メンバーは急いでロープを調達しにいきます。
村には一本のロープすらないのでしょうか、わかりません。
内戦が続けばそういうこともあるかもしれません。
いや、そうじゃありませんでした。
近くの雑貨屋に行ったら、ロープいっぱいありました。
でもなぜか店主は売ってくれません。
意味不明なことを言ってますが、メンバーは善意の人たちとはいえしょせん外国人です。土着の風習には疎いのでしょう。ぜんぜん理解できません。
管理人も理解できませんでした。
「てめーらの飲み水のために死体を引き上げてくれようとしてんのにこいつらアホか?つーか、なんで自分たちでやらないの?」と私は思いましたが、さすが映画の登場人物たち、悪口も言わずに退散します。
雑貨屋の店主がロープを売らなかった理由はすぐにわかります。
どこからかタンク車が現れて、チンピラっぽい集団が水を高値で売り始めます。村人たちしぶしぶ買います。搾取!弱みにつけこんだ悪徳商法!
いや、死体を井戸に投げ込んだの絶対こいつらやん。
雑貨屋の店主も絶対グルですやん。
あくどい…あまりにもあくどすぎる!
これが紛争地帯……平和ボケした日本人の常識は通用しないのか……と思いましたが、よう考えたら俺もコンビニで金払って水買っとるわ。
まっとうかどうかはわかりませんが、商行為の一つの形でしょう。
需要と供給の論理です。
そこらへんわかってない新人メンバーが「タダで配ってあげて!」と説得にかかりますが、だれも聞きません。
平和ボケした日本人から見てもさすがに甘っちょろすぎに映ります。
ちなみにこのド新人、最初に井戸の死体を見たときにめちゃくちゃビビります。紛争地帯なめきってます。
さて。メンバーは基本的に車で移動するのですが、道路に牛の死体がやたら転がってます。
なぜでしょうか?
実はトラップなのです。迂回してよけたら地雷が埋まっています。なにしろ紛争地帯です。
メンバーたちは、サッカーボールを年上の悪ガキたちに強奪されている少年と出会います。
ベニチオ・デル・トロが男気をだしてボールを取り返してあげようとするのですが、銃で脅されたのでドン引きしてあきらめます。
そう、ここは紛争地帯なのです。
サッカーボールのために銃撃が起こっても不思議じゃないのです。
滅入る……。
地雷がいっぱい埋まっているところでサッカーなんてよくやる気になるな……。
玉遊びで人生のゴール迎えてどうすんのよ。
とりあえず保護した少年を車に乗せると、その子が「ぼくの家にロープがある」と言います。
どうやら、サッカーボールも家にあるので、ロープを提供するかわりに取りに行きたいようです。
というのも内戦の最中、両親は少年を祖父の家に預けて自分たちは安全な地方に避難したらしく、少年はそれ以来実家に帰っていないみたいです。
子供を危険地帯に残してバックレる両親……闇が深い……。
その話に乗ったメンバーは少年の住んでいた村に行きます。
戦場になったのか、爆撃されたのか、村はめちゃくちゃです。
無事な家屋はひとつもありませんし、人っ子一人いません。ただの廃墟です。
少年の住んでいた家も屋根が吹き飛んでボロボロ。
危ないので少年を外に待たせたままベニチオたちは屋内に入り、さっそくサッカーボールを確保します。
ガレージに入ってみると、車がありました。
後部トランクが開けっ放しで、そこにはスーツケースが積んであります。
運転席を覗いてみると、ガソリンのメーターがゼロ、ガス欠でした。
どういうこと?
両親は子供を置いて逃げ出したはずでは?
言えないよ……度☆☆☆☆☆
ガレージの扉を開けると、庭に2体の首吊り死体がぶら下がっていました。おそらく少年の両親でしょう。
ガス欠で逃げられないことを悟り、絶望して自殺したのでしょうか?
それとも……。
余談入ります。興味ない方はとばしてください。
内戦はもっとも悲惨な戦争と言われます。
昨日までの隣人同士が殺しあうのですから。
数々の戦争を体験してきたアメリカで、もっとも最悪の戦争と教えられているのは第二次大戦でもベトナム戦争でもありません。
南北戦争です。
敵をひとり撃ち殺せばアメリカ人がひとり減る。
味方がひとり撃ち殺されればやっぱりアメリカ人がひとり減る。
現地住民を虐殺すればアメリカ人がいっぱい減る。
誰を殺してもアメリカ人が死ぬのです。
実際、アメリカの戦争史上でもっとも多くのアメリカ人が犠牲になった戦争だそうです。
以上余談でした。
気が滅入る現実ですが、とりあえず目的の物は発見できました。ロープがなければ首つり死体はぶら下がれませんから。
ベニチオたちは死体からロープを回収し、村に戻ることにします。
もちろん少年には両親が死んでいたことは言えません。
また牛の死体トラップに足止めされますが、なんとか村まで帰り着きます。
すでに丸一日たっています。
村で少年の祖父を発見します。
祖父はメンバーに「孫は家に入ったか?」と尋ねてきます。
つまり少年の両親が死んでいることを知っているのです。
遠くに逃げた、というのは祖父のせめてもの嘘だったのでしょう。
祖父はメンバーたちに真相を言わないように依頼します。
言えねえよなぁ……。
ここだけは平和ボケした日本人でも共感できました。
いろいろあったものの、ロープを調達できたメンバーたちは井戸から死体を引き上げる作業に戻ります。
ところが、開始したとたんに国連軍の邪魔が入ります。
なんでも休戦協定に「外国人が死体を動かしてはいけない」という規則があるそうです。
なんででしょうか?
故人の尊厳を、異教徒の外国人が冒せば紛争の新たな火種になるからでしょうか?
村人の飲み水を守るためだと説明しても、相手は軍人さんです。聞き入れてくれません。軍隊は規則が最重要なのです。
死体を動かしてまで手に入れたロープなのに、あっさり切られてしまいます。
またしても死体ぼちゃーん。
井戸に逆戻り。
ああ……なんなのほんと……。
メンバーの努力と善意は無に帰してしまいます。
でもしょうがありません。
彼らは外国人で、ただの善意の第三者に過ぎないのです。なんの権限もありません。
なんの成果も得られないまま、つぎの任務に赴きます。
難民キャンプの便所が壊れて汚物があふれたので、それを直せという指令です。
クソみたいな気分を味わった直後に、物理的にクソまみれ確定です。
でも、文句も言わずに任地に向かうのでした。
ほんとこの人たち尊敬します。
そして雨が降り始めます。
壊れた便所からクソが洪水となって流れ出すことが確定します。
ああっ!クソっ!
いっぽうメンバーが去った村の井戸は、激しい雨のせいで満水になり溢れてしまいます。
ということは……?
あれだけ回収に苦労した死体が、勝手に上に浮いてきたのです。
村人たちは、ロープもなにも使わずにてきとうに引きずり出しました。
雨のおかげで井戸の洗浄もOKですし、雨水をためておけば当面の飲み水も問題ないでしょう。
メンバーたちの命をかけたロープ調達作戦は、まったくの徒労に終わりました。
しかし結果よければすべてよし、でしょう。
原題は「A Perfect Day」です。
管理人はすごくふさわしい題名だと思いました。
人は選ぶと思いますが、おすすめです!