『ものがたりいちば』

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「シング・ストリート 未来へのうた」の感想

1980年代、女の子の気を惹くためにはバンドをやるべきだったという歴史的発見!

 

 

 

ネタバレ指数は限りなく低いです。
意外な展開はほぼ皆無なので、ハラハラドキドキはありませんが最後まで安心して観れます。
管理人はアマゾンプライムビデオで観ました。☆評価が4.5と高評価でしたので。
80年代の空気感や当時のロックシーンをふんわり味わいたい方におすすめです。

 

いきなり余談なんですが、記事を書くため、情報を整理するためにWikipediaのこの映画の記事を眺めてたら、
「上映時間 105分36秒」
と書いてありました。
36秒。
秒数まで書いてあるのを初めて見たので、なんか笑いました。編集した人細かすぎだろ!

 

2016年アイルランド映画
監督は、ジョン・カーニー。「はじまりのうた」の監督です。
「はじまりのうた」と本作の監督が同じと知ったときの納得感はかなりありました。
すっげー似てます。なにがどう似ているのかは後で書きます。

 

よろしければ、下記の記事もあわせてごらんくださいまし。

zwigani.hatenablog.com

 


主演はフェルディア・ウォルシュ・ピーロ。
ヒロインはルーシー・ボイントン。
他の助演として「ゲーム・オブ・スローンズ」のリトル・フィンガー役として有名なエイダン・ギレンも出演しています。

 

 

・序盤のかんたんなあらすじ。
1985年。アイルランドのダブリン。
当時のアイルランドは不況にあえいでおり、職を失う労働者が多数いました。
主人公は15歳の高校生コナー。立派な邸宅を所有する彼の父親も職を失い、酒浸りになり、妻と口論ばかりしています。


ある日、家族会議が開かれ、そこで家計節約のためにコナーは名門の私立高校から学費の安い公立高校に転校することになりました。
それがシング・ストリート高校なのでした。
いわゆる底辺高校ってやつですね。お坊ちゃん育ちなので不安です……。
転校したコナーは、登校初日にさっそく『洗礼』を受けます。
高校の敷地内で煙草を平然と吸っている生徒がたくさんいます。その時代のアイルランドの法律はよくわかりませんが、当時の日本では今と同じく未成年の喫煙はふつうに違法です。
中庭ではヤバそうなやつらが殴り合いをしています。ファイトクラブみたいです。
うわぁ……めっちゃガラわりぃなり……。


当然ですが、教室もカオスです。
授業なんかだれも聞いてません。煙草を吸ってるやつもいれば、教師よりも大きな声でおしゃべりしているやつもいます。
放課後も試練です。ガラの悪い坊主頭のやつにトイレに連れ込まれ、いきなりホモ呼ばわりされて脅されます。
80年代はホモ認定がマウントの手段だったのでしょうか?
わたし、14歳の美少女なので古代人のセンスはよくわかりません。嘘です!


とにかく、いじめっ子にロックオンされた、という絶望の事態です。

そのあとも食堂でいきなり殴られてチョコバーを取られたりします。

30円のチョコバーのために殴ってくる高校生。そんなに飢えているのか……いろいろ怖すぎ……。
とはいえ時代は80年代。

顔面パンチごときでは、大人はだれも助けてくれません。
それどころか教室で煙草を吸っている生徒をスルーしているのに、コナーが黒い靴を履いていないという規則違反をしているだけで嫌がらせをしてくる校長がいます。
この校長はコナーがデヴィッド・ボウイの真似をして派手な化粧をしたときに、洗面器の水に顔を押し付けたりする暴力野郎です。うーん80年代。
刑務所とたいして変わらない環境にぶちこまれたコナーは困惑します。


高校生活ハードモードまっしぐらだったコナーにささやかな救いの手が現れます。
小柄で冴えない感じのダーレンという少年です。童貞オーラぷんぷんです。
ダーレンはドヤ顔で「一年間耐えろ」というアドバイスをくれるのですが、どう考えても経験者談です。
というわけでいじめられっ子同盟結成です。なにはともあれ友だちゲットだぜ!


ほぼ同時にもう一つの出会いがあります。
学校の目の前の家に毎朝、同世代と思われるとてつもない美人が立っているのです。
「彼女は誰も相手にしない。他人に興味ないのさ」とどうせ童貞に決まってるダーレンが知ったふうな口をきくのですが、コナーは気にせず話しかけました。


案の定、彼女はコナーに興味を示しません。モデルをやっていて忙しいから話しかけんなみたいな塩対応です。
ものすごい美人なので実際にモデルかどうかはともかく、忙しいというのは二秒で嘘とわかります。いつも家の前にいるからです。
ここでコナーは思いつきます。
「バンドをやっているから、MV(ミュージックビデオ)に出演してくれないか?」
と持ちかけるのです。


もちろん嘘です。

 

ロック好きの兄の影響でギターを触ってはいますが、バンドなんてやってません。
しかし、美人は興味を示しました。
ラフィーナという名前を教えてくれて、おまけに撮影に参加することを承諾してくれたのです。
やっぱハッタリはやってみるもんなんだよなぁ……。


さあ大変!

コナーは急遽バンドを結成することにします。
てきとうに(マジでてきとうです)メンバーを集めて急造したバンドですが、意外にいいメンツが集まります。
そのバンドにつけられた名は――「シング・ストリート」
おおう! タイトル回収完了だぜっ!
時は1985年、「バンドをやっている」という言葉が魔法のような輝きをもっていた時代。
さあ、コナーの恋はどうなるのでしょうか!?
存在しないバンドをでっちあげて、ラフィーナと恋仲になることができるのか!?
いじめっ子のロックオンをはずすことはできるのか!?

 

 

――ネタバレ注意!――

 

 

「はじまりのうた」と似てる度☆☆☆☆★
はじまりのうたでは、アルバム作りの録音を路上でゲリラ的に行います。
本作では、MVの撮影をほぼ路上で行います。
本作において、主人公のコナーはあくまでバンド活動をヒロインのラフィーナの心をゲットするためにやっています。スターにのし上がりたいとか、金銭的に成功したいとか、そういうものを目指していません。
それははじまりのうたの登場人物も同じです。
また二つの作品はともに登場人物の家族関係が破綻した状態で始まるという点も似ています。
約100分という上映時間も似ています。


本作にはざっと眺めても「いじめ問題」「教師によるパワハラ問題」「青春恋愛問題」「破綻した家族問題」など、さまざまな要素が盛り込まれています。
両者ともに音楽ものですので、曲を流しているシーンが多いです。ミュージカルにありがちなのですが、曲を流している間は話が進みません。つまり、ストーリーを展開させる時間は100分よりもっと短くなってしまうということです。


そのせいで多彩に盛り込まれた要素がだいたい薄味で、話の展開が唐突に思えてしまいます。
監督のジョン・カーニーはMV出身らしいので、シーンごとの絵作りはやはり見事です。
しかし、切り貼り感があるし、各要素は投げっぱなしで薄味、根本的な体力不足を感じました。
「いじめ問題」もべつに掘り下げてません。
「教師によるパワハラ問題」もべつに掘り下げてません。
「青春恋愛問題」も「破綻した家族問題」も同じくです。
なんとなーく入れてみましたって雰囲気がすごくて、たいがい嘘くさいです。たぶん、監督としてはどうでもいいことなんでしょう。MVとMVの間の場つなぎにストーリーをおまけで挿入しているだけですね。

 

 

景気が悪いと男は……度☆☆☆☆☆
失業すると、男はアルコール依存症になる。それは全時代万国共通の事実のようです。
実際、登場する未成年キャラの多くの家庭は父親がいないか、もしくはアルコール依存症になっています。
ヒロインのラフィーナ児童養護施設に住んでいますが、その原因は父親がアル中になって事故って死んだからです。
コナーをいじめる乱暴者もアル中の父親にしょっちゅう殴られているので、その憂さ晴らしとして学校で暴力をふるうのです。もともと裕福だったコナーの父親も失職によってアル中になり下がりました。
この作品はコロナ禍以前に作られた映画です。
現在の日本でもアルコール依存症が急増しているという記事を読みました。
おんなのひと、こどものひと、逃げて~!

 

 

80年代の不思議度☆☆☆★★
アイルランドから遠く海を隔てた日本も、80年代の学園は荒れていたらしいです。
スクールウォーズ」や「金八先生」といった教師賛美のドラマが流行るなか、現実では底辺高校の窓ガラスは割れ放題、短ランリーゼントのヤンキーが教師を殴りまくり、シンナーや覚せい剤でぶりぶりにガンぎまりした暴走族が夜な夜な「盗んだバイクで走りだ」して爆音を響かせまくる。そういった輩を罰するために、教師側もバッキバッキ生徒を殴りまくっていた。
ある意味伝説的な時代です。
未成年が得体のしれない怒りに取りつかれて暴れているいっぽう、大人たちは空前のバブル景気に踊っていました。
よくわかりません。


(管理人は14歳の美少女です。バブル時代の日本の実情を知りませんので、かなり偏見入ってます。え、おっさんだろ?おっさんってなによ?定義は?)


ジャパンアズナンバーワン、などと調子に乗っていた日本でも学生は荒れていたのです。
不景気だったアイルランドで荒れるのは当然のことと思います。
それでも流行っていた音楽とかは同じなんですねー。
不思議です。
MTVのおかげなんでしょうか?
もしかしたら、MTV時代の幕開けを懐かしむための作品なのかもしれませんね。
この時代のポップスシーンはいずれ調査したいなと思います。

 

まとめ。
ストーリーは一貫性がありませんし、シリアスなテーマ食い散らかして放置しているのがけっこう腹立ちますが、そんなことは考えなければいいことです!

絶対にマジメな映画だと思わないでください!
この監督のロックポップス好きはすごく伝わってきます。
シーンごとの絵のかっこよさもいい感じです。
80年代のロックシーンの雰囲気をふんわり感じたいひとにおすすめです!