『ものがたりいちば』

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映画「永い言い訳」の感想

 

誰もがきれいな遺族でいられるわけではない。

 

2016年日本映画。ジャンルはヒューマンドラマ。
監督は「ゆれる」などの西川美和
主演は「おくりびと」などの本木雅弘


ネタバレでどうこうなる作品ではないと思いますが、できれば避けたほうがいいでしょう。

 

 

・序盤のかんたんなあらすじ
作家の幸夫はかつて人気作家だったが、最近はなかなか新作をだせずにいて「文豪気取りのテレビタレント」などと揶揄されることもある。


売れない頃から20年連れ添った妻の夏子にも愚痴ばかり吐いている。
そんなある日夏子が親友のゆきと旅行に出かけたのをいいことに、幸夫は自宅に愛人を連れこんだ。


セックスを終えたときに地方の警察から電話が入る。
それは、夏子が乗ったバスが交通事故にあって、死亡したという知らせだった。


あわただしく葬儀を終えた幸夫に、編集部は夏子との思い出を作品にすることを提案する。


幸夫は「身内の不幸を売りにするくらいなら断筆したほうがマシ」と断るのだが、結局なにも書けない。
妻が死んだことを悲しむ様子もなく、エゴサーチばかりしている。


そこへ大宮陽一と名乗る人物から連絡が入った。
陽一は夏子と同じくバス事故で死んだ親友ゆきの夫で、突然家族を失った悲しみを会って共有したいと申しでる。


なんとなく承諾した幸夫は大宮家と対面する。
大宮家は父陽一と兄の真平、そして妹の灯という父子家庭だ。


長距離トラック運転手の陽一は一見強面だが、接してみると情に厚いまっすぐな男で、妻の死を悲しめない幸夫とちがってことあるごとに涙をみせる。


大宮家は悲しみに加えて現実的な問題をも抱えていた。
陽一は長距離運送で何日も家を空けることの多かったが、今後はそうもいかない。


中学受験を目指していた兄の真平も幼い妹の面倒をみるために塾通いをあきらめざるを得ない。


なんとなく幸夫は陽一不在のときに大宮家に来て子どもたちの面倒を見ることを提案した。


単なる思いつきに過ぎなかったのだが、一家と接するうちに子どもたちと打ち解けて深く結びつくようになっていく。
妻の死によっても変わらなかった幸夫が、変わり始めていくのあった。

 

 

――ネタバレ注意!――

 

 

 

本木雅弘の浅い演技度☆☆☆☆☆
けなしてません!
ほめてます!


この幸夫という男めちゃくちゃ浅いんです。
作家のくせに薄っぺらくて自分のことしか興味がない男です。


妻の親友の名前も覚えてない、担当編集者に子どもがいることも知らない、妻が死んだあとにもエゴサーチしている、そういうレベルの浅さです。


その浅さがいいんです。
妻が事故死したときに愛人とばんばんセックスしまくっていた、なんて最低のクズですよね。


でも誰だってある程度クズな瞬間や時期はあります。
幸夫の場合それが最悪のタイミングで出てしまいました。


事故遺族の当事者として書いてみないかと編集部に提案されたときに激怒したのも、自分にはそんな資格がないと自覚していたからでしょう。
悲しむ資格すらない、と。


もしかしたら、まっすぐに悲しみに浸っている大宮家を手助けしようと思いついたのも、それが動機かもしれません。


大宮家と接するうちに幸夫は「妻の死を悲しむ資格はない」という呪縛――言い訳から解き放たれていくわけですが、その変化をうまく演じ分けています。
お見事!

 

 

きっかけはなんでもいい度☆☆☆☆★
いや、なんでもはよくないです(どっちだ)。


事故があってから、幸夫や大宮家にはさまざまな人間が接触してきます。
なかには霊媒詐欺まがいのうさんくさい勧誘もあります。


しかし、あからさまにうさんくさい出会いかたをしたある人物が大宮家の救いになり、結果的に幸夫が「永い言い訳」をやめる救いにもなるのです。


なんでもはよくないですが、なにもかもに扉を閉ざしちゃだめなんですね~。
ただ、詐欺師にはご注意を!

 

 

幸夫が浅い時代に書いた小説読んでみたい度☆☆☆☆☆
ぜったい薄っぺらくてつまんないでしょ!

それだけです!

 

というわけで、両極端な遺族感情を描いた良作です!