2019年アメリカ映画
監督:ジョーダン・ピール
主演:ルピタ・ニョンゴ
謎に答えをだすためにかなりの長文になってしまいました。
5000字以上あるので、たぶん読むのに10分以上かかると思います。
- 序盤のかんたんなあらすじ
- わけわからなすぎてまったく怖くない度☆☆☆☆☆
- エレミヤ書とは?
- オチすらわけわからん度☆☆☆☆☆
- なぜアメリカ政府はクローンを作ったのか?
- 神は実在した度☆☆☆☆☆
- 残された謎
- まとめ
序盤のかんたんなあらすじ
1986年。
少女アデレードはサンタクルーズの遊園地で鏡の部屋に入り、自分とそっくりの少女と出会う。
そのとき受けたショックのせいで失語症になってしまった。
それから約30年後の現在。
成長したアデレードは失語症を克服し、夫と2人の子に恵まれ、幸せな生活を送っている。
夏休みのバカンスでサンタクルーズの別荘に滞在した一家は、ビーチを訪れる。
そのビーチはかつて謎の少女と出会った遊園地がある場所であり、アデレードは昔を思い出して不安に襲われる。
その夜別荘でアデレードは夫に過去の出来事を告げ、サンタクルーズから去ろうと提案する。
しかし、そのとき別荘の外に謎の家族が現れる。
謎の家族は別荘に侵入してくると、アデレードと家族をソファに座らせた。
驚くべきことに謎の家族はアデレードたちにそっくりだったのだ。
果たして謎の家族の目的はなにで、アデレードたちをどうするつもりなのだろうか……?
――ネタバレ注意!――
――SF小説『わたしを離さないで』のネタバレもあるので注意を!――
わけわからなすぎてまったく怖くない度☆☆☆☆☆
冒頭の『ハンズ・アクロス・アメリカ』運動のビデオ、示唆される聖書の一節、自分とうりふたつのドッペルゲンガー、鏡、兎、象徴的な赤いジャンプスーツ。
序盤でピンときました。
「あ、これ教養がないとわからんやつだ!」、と。
きっと「批評家の評価が高いけど、自分にはさっぱりわからなくて拗ねるパターンだな!」と思いながら観ていたのですが、そうでもなかったです。
おもしろかったので拗ねはしませんでしたが、やっぱりさっぱりわかりませんでした(笑)
冒頭で『鏡』や『兎』や『赤』が強調されていたのでアリスをモチーフにしているのかと思ったので、鏡の国のアリスのあらすじをさらってみましたが、関連性はぜんぜんわかりませんでした(笑)
エレミヤ書とは?
とりあえず、何度も劇中で示唆されたエレミヤ書の線から調べてみることにしました。
グーグルで『エレミヤ書』と入力したら、サジェストの1番上に『11章11節』が出てきて笑いました。
やっぱみんなググっちゃうよね~(笑)
あれだけ11をアピールされたらさすがに気になりますよね!
どうやらエレミヤ書は旧約聖書の一部分らしく、11節だけ読んでもわからなかったので11章を読んでみました。
かいつまんで要約すると、
「エジプト王国で奴隷にされていたユダヤ人を神が助けてやるかわりに、ユダヤ人は神のしもべになって言うことを聞くという契約を結んだ。なのに、その子孫が神の言うことを聞かなくなったのでひどい目にあわせるわ。苦情は受けつけん」
シカトされた神が拗ねて暴れた、というエピソードでした。
赤の襲撃者は神の与えた罰ということでしょうか?
異教徒のみなさんにはマジでとばっちりなんですが(笑)
そういうのはユダヤ教徒に限定してやってどうぞ!
主人公のアデレードたちがユダヤ教徒だったようには見えないので、エレミヤ書の内容はあんまり関係なさそうです。
と思いましたが、そういえば唯一神教では異教徒でいること自体が罪なんでしたっけ。
じゃあとばっちりじゃないな!
神の偉大さを知らぬ異教徒ども全員死刑もやむなし!
オチすらわけわからん度☆☆☆☆☆
終盤でじつはドッペルゲンガーたちが人間の作ったクローンで、地下に閉じこめられていたことが明らかになりましたが、アメリカ政府がなんのためにそんなことをやっていたのかさっぱりわかりません。
子どものクローンもいましたから、現在でもクローン生産は続いているということでしょう。
本人に無許可でクローンを作って秘密裡に地下に隔離する意味とは……?
ノーベル賞作家カズオ・イシグロの有名なSF小説『わたしを離さないで』にもクローンが出てきます。
日本でもTBS系でドラマ化されてましたね。
『わたしを離さないで』に登場するクローンは、金持ちが病気になったときや年老いたときのためのスペアの臓器袋として生産され、管理されるのです。
本人とまったく同じDNAの臓器ですから移植による拒絶反応などのリスクがまったくない優れものです。
医療用クローンということですね。
もちろん自我もあれば知性もあります。
本作のクローンのように魂がつながっているということはなく、まったく独立した一個の人間です。
自我も知性もある人間から臓器を抜き取って殺していくことの倫理的な問題はともかく、医療用のスペア臓器という目的は理解できました。
なぜアメリカ政府はクローンを作ったのか?
ところが、本作のクローンはべつに医療目的じゃなさそうです。
なにしろオリジナルの本人がクローンの存在を知らないんですから。
なんの訓練もされていないっぽいので軍事目的でもなさそうです。
そもそも軍事目的なら、だれかれ構わずクローンにせずに優れた兵士を量産したほうがいいに決まっていますからね。
もしかして当初は軍事用クローンとして実験的に生産し始めたけど、魂がつながっていてオリジナルと同じ動きをしてしまうから使い物にならないと判断されたのでしょうか?
じゃあなんで欠陥品を今でも作ってるんだよ(笑)って話になるので、軍事目的の線でもないことになります。
医療用でも軍事用でもない……。
ちょっとわたしの貧困な発想力では目的を想像できなかったので、ここはグーグル先生にお助けいただくことにします。
「クローン 使い道」で検索すると、いいアイディアを書いているひとがいました!
アイドルや女優のクローンを作って恋人にするという、エロ目的がありました(笑)
なるほど、その手があったかーーーーーーー!
わたしはなんてつまらない人間なんでしょう!!!
いちばん最初に思いついてもいいはずなのに、頭がむだに紳士的すぎるんだ……!
ただエロ目的はいい線いってますが、本作では違いますね。
クローンはオリジナルと魂がつながっていますが、独立した自我は持っているので、恋人になってくれるかどうかわかりません。
それに、選んで作っている様子がありません。
だいたいアメリカ政府が国民や全世界に秘密裡で行っている巨大な陰謀が「エロ目的でしたー」じゃアホらしすぎます(笑)
同じ理由で、アインシュタインみたいな天才のクローンを作って科学の進歩に貢献させるなどの、優等人類増産計画でもないはずです。
優れた容姿、優れた頭脳、優れた肉体、こういう特別な才能をもつ人間を増やす目的ではないでしょう。
アデレード一家も友人の一家も裕福そうではありましたが、人類になくてはならない特別な才能の持ち主には見えなかったですから。
選ばずに作りまくっていることから推察したほうがいいかもしれません。
病原菌や薬、生物化学兵器などの人体実験用に作っているとすれば、理解できます。
多種多様な体質の人物に試すことで、より確実性の高い成果が得られそうだからです。
ただそうなると、なぜあんなにたくさんの健康体が残っていたのか、という疑問が残ります。
しかもアデレードのドッペルゲンガー(じつはオリジナル)の語りには、地下に閉じこめられた恨みはこもってましたが、残虐無道の人体実験に使われたことへの怒りはありませんでした。
もしクローンが何十年も使い捨てにされてきたなら、その怒りはあんなもんじゃすまなかったはずです。
アメリカ政府が膨大な額を費やして大量のクローンを作り育ててきたのか、マジで目的がわからなくなってきました。
ここは基本に立ち戻って、映画に描かれたことから答えを見つけたいと思います。
クローンとオリジナルの行動に連動性があることは、実験のかなり早い段階からわかっていたはずです。
まあ、時と場合によって連動したりしなかったりするんですけど(笑)
というか、劇中のほとんどの時間連動してなかったんですけど(笑)
ドッペルゲンガーの回想シーンだと多くのクローンが連動しまくってましたけど、なぜ連動が止まったのかよくわかりません。
ともかく、連動することを証拠として「魂がつながっている」と主張したのはドッペルゲンガーであって、事実かどうかは不明です。
もしかしたらアメリカ政府は魂の存在を証明しようとしたのではないでしょうか?
そして、それを通じて神の存在を確かめようとした……。
その結果はいかに?
神は実在した度☆☆☆☆☆
人間を作る権利は神にしかありません。
現実の世界ではどうだか知りませんが、この映画の世界ではそういうルールになっているのです。
一応現実の世界でも宗教家のみなさんがクローン作製に反対しています。
神の権利を侵害して大量にクローンを作り続けた結果、神の怒りを買い、エレミヤ書の11章11節が発動してしまったのです。
神のもたらした災い――それがクローンの反乱の正体です。
つまり神は実在したのです!
アメリカ政府は見事、神の実在の証明をやってのけたのです!
さすがアメリカ、そこにしびれるあこがれるぅーー!!!
そのせいでアメリカは滅亡することになりそうですけど(笑)
ということで納得することにしておきました。
観た直後は「この映画ぜんぜんわけわからん……」と思っていましたが、ちゃんと考えればわかるものなんですねー。
答えがあっているかどうか知らんけど(無関心)
あれだけしつこく『エレミヤ書』とか『神』とか言ってるんだから、まあそうなるわなぁ……。
個人的にはこういうありきたりな結論に飛びついてしまうのはあまりよくないと思います(笑)
残された謎
まだ謎は残っています。
というかまだあんのかよ……。
1、連動するしないのルール
2、クローンが手をつないで人間の鎖を作っている理由
1についてはストーリーの都合でコロコロ変わっていると思うんで考えることを拒否します!
クローンがオリジナルの行動に連動してしまうなら、子どもの頃にアデレードと入れ替わったドッペルゲンガーが連動せずに地上界で自由に動いていたことと矛盾します。
息子のクローンを撃退するときには息子と急に連動してましたが、あれはそういうトリッキーな撃退方法を見せたいと神(監督)が思ったからそうなっただけだと思います。
ごくたまーに連動しちゃう、程度の頻度のはずです。
そうじゃないと地上にいるオリジナルたちがう〇こをしようとして踏んばるたびに、地下がう〇こまみれになってしまいますから(汚)
2についてはめちゃくちゃ簡単です。
クローンたちの教祖(というか救世主)であるオリジナルアデレードが地下に閉じこめられたとき、まだ『ハンズ・アクロス・アメリカ』は実施される前だったのです。
冒頭に参加を呼び掛ける宣伝ビデオが流れていましたから。
つまり、オリジナルアデレードは『ハンズ・アクロス・アメリカ』に参加したかったのです。
サンフランシスコからNYまでみんなで手をつないで、人間の鎖をつなげてみたかったのです。
だから、地上に出たときのために『ハンズ・アクロス・アメリカ』を神の教えとして信者たちに吹き込んでおいたのでしょう。
救世主は残念ながら夢を叶える前に死んでしまいましたが、信徒たちは彼女の教えを忠実に実行しました。
クローンたちは神に背いた不届きなオリジナルどもと違って、神の教えに従順な、神の真のしもべだったのです。
これでこの作品のすべての謎が解けました!!!
めでてぇ!
まとめ
ウィキペディア情報によると「恵まれている人々が恵まれない人々から目を背け、まるで存在しないかのように振舞うのは間違いだ」という監督の思いがこもっているそうです。
なんかアメリカの監督や俳優はそういうテーマをけっこう自分で説明することが多いと感じています。
「テーマはすべて映画の中に描いたので、あとはご覧になった観客のご想像にお任せします」
みたいな投げっぱなしをやらないというか……。
けっこうそういうかっこつけをやるクリエイターがいますからねぇ。
わたしなどはそういうことを言われると「どうせアホは観てもわかんねーんだからもったいつけてないでとっとと説明しろよ!」という気分になるので、説明してくれるのはありがたいです。
べつに伝えたいこと、理解してほしいこと、知ってほしいことがないのなら構わないのですが、本作のように世界や社会をよくしたいという思いをこめているなら、説明するべきでしょうね。
実際観ただけだと「弱者無視をやめて手を差し伸べて」というメッセージがこもっているなんてぜんぜん気づきませんでしたし(笑)
「わけわかんねーわけわかんねー」とぶつくさ言ってるだけでしたから(笑)
長くなりましたが、以上です!