『ものがたりいちば』

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映画「望み」 ネタバレあらすじ感想 殺人事件に隠された本当の『望み』を暴く!

2020年日本映画
監督:堤幸彦
主演:堤真一

意外性たっぷりのサスペンスの感想はっじまっるよ~!

 目次です。好きなところから読めます。

 

序盤のあらすじ


建築士の石川は妻と2人の子どもに恵まれ、自分で設計した立派な家も建てて、充実した日々を送っていました。
ところが高校1年生の長男タダシがサッカー部の練習中にケガをして部を辞めたことから、幸せな生活に変化が訪れます。


打ちこめるものを失ったタダシは塞ぎがちになり、あまり家族とコミュニケーションを取らなくなりました。
夜遊びが増え、無断外泊することもあるタダシを妹は不良扱いしてからかいます。
父は腑抜けているタダシに「なにもしなければなにもできない大人になる」とありがたくも鬱陶しい説教をくれてやるのですが、タダシは無言でした。


ある日、タダシの部屋から小さな切り出しナイフが見つかります。
戦いには向かない小さなものとはいえナイフはナイフ、父は使用目的を聞きますが、タダシは答えませんでした。


とりあえず父は自宅の横にある建築事務所にそのナイフを保管しました。
タダシが危ういシグナルをびんびん出しているのは明らかですが、両親はあまり気にしません(笑)


ある朝、近所で殺人事件が発生しました。
車のトランクから少年の死体が発見され、現場から逃げ去る2人の少年の姿が目撃されています。


そのニュースを見た父母はすこし不安に襲われます。
タダシが昨晩また無断外泊をして、今もなお帰っていないからです。
被害者の少年がタダシの友人だったかもしれないと妹が言うので父母の不安はますます大きくなりました。


地元警察に相談すると、2人の刑事がやってきて、事件の詳しいことをなにも言わずにまるでタダシを容疑者かのように扱ったのです。
行方不明の息子が人を殺したかもしれない……家族の不安な日々が始まるのでした。

 

 

――ネタバレ注意!――

 

 

 

マスゴミジャーナリスト、魂の報道


どこかでタダシが行方不明なことを聞きつけた雑誌記者がやってきて、情報を教えるかわりに事件の後インタビューさせてほしいと提案してきます。
母は一度は断るのですが、結局その申し出を受けて情報を得ることになります。


すぐにマスコミのみなさんにもタダシのことが知れ渡り、さっそくすっ飛んできたマスコミのみなさんはがっちりメディアスクラムを組んで石川家を殺人犯の家族と決めつけます。
始終自宅をマスコミに囲まれているので気軽に外出もできません。


さらにネットでもバッシングが始まり、自宅が大人気の観光スポットになってしまいます。
観光客のみなさんが記念に落書きを残していくので、父は毎朝の日課にそれを洗い落とす作業を加えなければいけなくなりました。
観光地での落書きはマナー違反というより違法行為なのでやめましょう!


影響は父の仕事にも出始めます。
殺された少年が懇意にしている工務店の関係者の孫だったため、工務店の社長は「もう石川事務所の仕事は受けられない」と言ってきたのです。


高校受験を控えた妹にも悪い影響が出ます。
学校や塾でいろいろと言われているようで、志望している名門私立校に合格できないかもしれないと不安になります。


息子の行方を知りたい母は、雑誌記者に連絡を取り、インタビューを受けるという約束のかわりに情報を教えてもらうことにしました。
すると、意外なことがわかりました。


行方不明の少年は2人ではなく3人で、しかもそのうちの1人はすでに殺されている可能性が高いそうです。
犯人も捕まってないし遺体も見つかってないのになんでそんなことがわかったのかは描かれないので気にしないことにします(笑)
この情報によって家族を取り巻く状況は大きく変化します。


タダシは人を殺して逃亡している凶悪犯か、そうでなければ殺されてしまっている、この2つに1つになってしまうのです。
これまでは石川家のメンバーは『殺人容疑者の家族』ということでバツの悪い思いをしている点で共通していましたが、この情報により、家族それぞれの思惑が割れてしまうのでした。

 

 

それぞれの望み


タダシは人殺しではないかもしれない――この新情報を受けて父と妹はある望みを持ちます。
もしタダシが人殺しなら父は仕事を失うでしょうし、妹も名門私立に進学するどころの話ではありません。


引っ越しして隠れるように生きていくハメになるでしょう。
妹は追い詰められて自殺する未来まで見越しているようです。


しかし、タダシが人殺しではなかったら、前のような生活を取り戻せるかもしれないという希望を持てます。
ということで父と妹はそっちのルートであってほしいと『望み』ました。


とはいえそのルートはタダシの死を意味します。
母はただ1人、たとえ息子が人殺しであっても生きていてほしいと『望み』ます。
家族の望みが2対1に割れてしまいました。


父が事務所に保管したナイフを確認すると、なくなっていました。
事務所の従業員が言うには、事件当夜にタダシが持っていったそうです。
これで母の望んだ『タダシ殺人犯ルート』の線が濃厚になってしまい、父は絶望を隠せません。


するとまた事件が進展を見せました。
主犯格の少年が逮捕されて、取り調べがはじまったのです。
これで逃走しているもう1人の少年が捕まるのは時間の問題となったので、母はさっそくタダシの好物を差し入れるために食材を買いに走りました。


息子の無実をまったく信じてないんですけど(笑)
たとえなにがあっても生きていてほしいのですから、むしろ無実なんて信じたくないのです。

 

 

事件解決~『望み』に隠された真実の闇


いっぽう、家に残された父は仕事もなく暇なのでタダシの部屋に侵入し、2つの物を発見します。
1つはリハビリについての専門書、そしてもう1つは――あのナイフでした。


タダシはあの夜、出かける前に事務所からナイフを持ちだして自分の部屋にあらためて保管しなおしたのです。
なんでそんな紛らわしいことをwww


父はこの発見によりタダシの無実を確信し、タダシの行動を『人を傷つけないという誓いを新たにするためにあえて自分の部屋に置いていった』と解釈しますが、ただのサスペンス工作です(笑)


もしかしたら凶暴な不良との戦闘を目前にして、このナイフがあまりにも小さくてショボいことに不安を覚えて置いていっただけで、出先でもっと攻撃力の高い刃物を買ったという可能性もあります。
しかし、父は親子の絆で息子の無実を確信しました。


ここまでの流れを考慮すると、父が息子の人間性を信じていたからというよりも、絶望視されていたルートに望みが出てきたから飛びついたという風にも見えます。


自分の望んだルートが来たことに大喜びした父は素早く喪服に着替え、母にナイフの件と息子の無実を告げ、堂々と胸を張って殺された少年の葬儀に向かいました。
母への心遣いゼロです(笑)


タダシが犯人ではないということは、ひたすら息子の生存を願った母の望んだルートは道を閉ざされるということですから。
他人の望みなんか知ったこっちゃねえんだよ!!www
俺は自分の息子が人殺しじゃなかったことがうれしくてしょうがねえんだよ!www


というわけで意気揚々と葬儀場に乗りこんだ父は困惑する遺族に「おらおら俺も被害者遺族なのに、てめえら加害者扱いしやがって!」と申したわけではありませんが、もうそういう当てつけをやりにいったようにしか見えません(笑)


案の定、思惑通りにバカが釣れて殴ってくれました!
いや失礼、バカではありません。
なにしろあちらさまには事情がさっぱりわかっていませんから、少年はタダシに殺された可能性があると思っているので追い出そうとするのは当然の対応です。


マジメになんで父はそんなことしたんですかね~?
息子を疑っていたことを恥じて、世間にタダシの無実をアピールするのが動機だったとしたら、無意味です。
犯人が捕まった以上、真相が明らかになるのは時間の問題ですから。


自分だけが知っている息子の無実の証拠(?)をもとにやるべき行動ではありません。
相手遺族の状況や感情をなにも考慮していない身勝手な行動と言わざるを得ません。
家を出ていく前に母にさらっと絶望を与えていったのと同じく、この男には他人を思いやるという感情がないのです。


自分の家をモデルルームみたいに顧客に見せて、赤の他人に部屋を見られるのを嫌がっているタダシの感情も無視していました。
自分で思い通りに家を設計したように、家族も自分の思い通りにすべきだと思っていたのでしょう。


考えてみれば、タダシが行方不明になってから必死に行方の手がかりをつかもうとしていた母と違って、父は息子探しよりも汚されてしまった大事な自宅の清掃を優先していました。
どうりで息子の生存を望んでいた母とは望むルートが違うわけです。


この男は自分のことしか考えないサイコパスだったのです!
すべてが自分の思い通りになってくれること、それこそがこの男のほんとうの『望み』なのでした。

 

 

事件の真相~望みの終わりに


葬儀をぐちゃぐちゃに荒らして1人気持ちよくなっちまっている父に警察から連絡が入りました。
タダシが発見されて死亡が確認された、という知らせですが、もう知ってるやつです(笑)


あわてて全力疾走で遺体安置所に急行しますが、この男に他人を思いやる心はないので、あわてたフリをしただけでしょう。
その証拠に変わり果てた我が子と対面してすぐに泣き崩れた母とちがって、この男はしばらく経ってから思いだしたように泣きはじめました。
これももちろん演技です。


事件の顛末はこうでした。
タダシをわざとケガさせたサッカー部の先輩を最初に殺された少年らがタダシに無断で襲撃して足を折ったのです。
その先輩が地元の不良グループに泣きついたため事態はエスカレートして、襲撃に関与していないタダシもその過程で巻きこまれてしまいました。


そのときにあのナイフを購入したとのことですが、正直身を護るためならもっとでかいやつにしておいたほうがよかったと思います。
そして、窮地にある友人を助けるためにあの夜出て行って殺されてしまったのでした。


タダシの葬儀に、少年の遺族と石川父を殴った工務店の社長が訪れました。
社長はとんでもないことをしたと泣いて土下座します。
被害者を加害者として糾弾するというのは、かなり最低な行動ですからね。
これこそが父の思い描いた待望のシーンであり、そのためにわざわざあの葬儀に顔を出したのです!


建築士石川は先方が自分との取引を一方的に打ち切ったことに非常に腹を立てており、あえて葬儀に出向いて挑発して殴らせることで、事件の真相が発覚したあとの関係性で優位に立とうと企んだのです。


逮捕された少年がゲロっちまって石川家も遺族と世間に知られてしまったらそういう画策ができなくなってしまうので、あえて自分だけがタダシが無実だと知っている状況を利用したのでしょう。


このあと工務店がどんな安い価格で取引させられるかを思うと気の毒でなりません。
息子の死さえも自分のために利用する、怖すぎ……。


ラストにタダシ死亡以前以後の家族の集合写真が比較画像として提示されますが、その光景はタダシがいなくなっただけでなにも変わりがないように写っています。
幸せそうな笑顔で……。
以前と変わらぬ、石川の思い通りの生活が続いているのでした。

 

 

『望みの叶った人間と叶わなかった人間のまとめ一覧』


石川父〇:すべて自分の思い通りの生活を取り戻した
石川母×:愛する息子を失った
石川兄×:友人を助けられなかった
石川妹〇:目標だった名門私立に進学できた
雑誌記者×:人殺しの母に独占インタビューするというネタを逃した
工務店の社長×:これからサイコパスの言いなりで奴隷のように扱われる
タダシのクラスメートたち△:彼女たちの信じたとおりタダシは殺人者ではなかったものの、亡くなっていた
落書きした人及びご近所さん×:被害者遺族をいじめてたとなっちゃ、恥を背負って生きるハメになる
マスゴミのみなさん×:報道被害BPOに叱られる
マスコミのみなさん〇:そのおかげで事件報道についてあらためて考える、という番組のネタができた
ネットイナゴのみなさん×:あいかわらずフィクションでバカにしか描かれない(笑)

 

 

目新しい度☆☆☆☆☆


サイコパスが犯罪を行わない、という題材はとても珍しいと思います。
しかもじつに巧妙に石川の異常性をオブラートに包みつつ提示しているので、ぼーっと観ているだけだと最後まで気づかないかもしれません。


事件に翻弄される哀れな被害者遺族の物語と思わせる作りになっていますが、その裏側に気づいた観客には発見の喜びを与えるという構造になっているのがすごいと思いました。
ただ、巧妙すぎてちょっとわかりにくいんですけど(笑)


ただただ哀れな被害者遺族の物語として受け止めちゃうと、石川のサイコパス行動がノイズになってしまいます。
いろいろと納得のいかないことが多くて評価が低くなってしまうかもしれないので、もうちょっとヒントがわかりやすければなぁと思いました。

 

 

もしかして妹もサイコ?度☆☆☆☆☆


妹も望みを叶えた側の人間ですね。
「お兄ちゃん、死んでてくれたらいいのにな~」と言ってましたし(笑)
事件前に足のケガでサッカーを辞めざるを得なかった兄の心境を気遣う様子もありませんでした。

 

 

お母さん逃げて~!!!度☆☆☆☆☆


これから先の人生、息子を失った悲しみに耐えながら石川に支配される日々を送るなんて不憫すぎます……。

 

斬新なサスペンスでおもしろかったです!