『ものがたりいちば』

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ドキュメンタリー「ショックウェーブ(Shock Wave)」レバノンに起きた爆発の悲劇

2020年オーストラリア制作

 目次です。好きなところから読めます。

 

番組の概要


2020年8月4日午後18時頃、レバノンの首都ベイルートの港で火事になっていた倉庫が2度の爆発を起こしました。
とくに2度目の爆発の威力はすさまじく、半径2キロ圏内の建物はすべて被害を受けました。
207人の死者、6000人以上のケガ人を出し、30万人以上が家を失う悲惨な爆発事故だったのです。


専門家によると爆発の威力は広島型原爆の10分の1で、核爆発によらない爆発としては史上最大のものだったそうです。
爆発事故の原因は港の倉庫に何年も放置されていた硝酸アンモニウムに引火したことでした。
諜報機関や運輸局など複数の機関が何度も危険性を報告していたにもかかわらず、政府は首都のど真ん中にある爆弾を放置し続けたのです。
国民の怒りを買った内閣は後に総辞職に追い込まれました。


この番組は爆発当日のライブ映像と、それに映っていた人たちの『その後』を追ったドキュメンタリーです。
とくに印象的だった人たちを取り上げてみたいと思います。

 

 

被害者たち

 

ケース1:オーストラリア人の夫婦
ベイルートで暮らしていた夫婦は、本来なら事故当日にはオーストラリアに帰国しているはずでした。
しかし、コロナ禍によるロックダウンの影響で出国することができず、ベイルートにとどまっていたのです。
そしてあの日、悲劇に見舞われたのでした。


自宅にいて倉庫の火災を知らなかったため、家族はいきなり爆風に襲われた形になります。
家具が吹っ飛ばされ、大人でもなぎ倒され、ガラス片が飛散しました。
夫婦が2歳の我が子を確認すると、大きなガラス片が胸に突き刺さっていました。
2人はあわてて外へ運びだします。


靴もはかずに走ったので足の裏をガラスでケガをしましたが、そんなことは当時気づかなかったそうです。
通りかかった車にのせてもらって病院に行きましたが、治療も及ばず子どもは亡くなりました。


この夫婦は帰国した今でも「もし」という考えに苦しんでいるそうです。
もし、もっと早く帰国していれば……と。
コロナ禍が生みだした数多くの悲劇の1つになってしまった例です。

 

ケース2:カフェオーナー
この人はドキュメンタリーのインタビュアーも足しげく通っていたカフェのオーナーです。
仕事中に爆発に見舞われ、顔や足に大怪我を負いました。
カフェが壊れただけでなく、自宅もめちゃめちゃに壊れています。


再会した大家さんには「住み続けてくれ」と頼まれてましたが、住めるのでしょうか。
この人は怪我の後遺症はあってもカフェを再建している様子が描かれます。
レバノンなのに、註文した翌日にガラス窓が届いたことに驚くジョークを言う余裕がありました。

 

ケース3:若い夫婦
倉庫の近くのビルに新居を構えていた夫婦は、火事の様子をバルコニーでライブストリーミングしていました。
駆けつけた救急車を見て、
「だれにもなにも起こらないことを祈る」「神がそんなことをするはずがない」
と深刻なレポートをします。


1度目の爆発の後、異変を察して部屋の中に入りましたが、夫が歩行困難になるほどの重傷を負ってしまいました。
夫は「レバノン以外のどこの国が住宅街のそばに爆発物を放置するものか」と祖国への失望感を吐露します。
神が爆発を止めなかったのに、妻は「神のおかげで手足がついている」と信仰心に微塵の揺らぎもみせません。
ポジティブに前を向いているようです。

 

ケース4:結婚式を挙げていた夫婦
結婚式の直前の写真撮影中に事故に遭いました。
幸い怪我もなく、その日のうちに挙式したそうですが、爆発後の経済悪化のせいで仕事を失い、インフレのせいで貯金もどんどん減り金銭的な問題を抱えているそうです。
新婚なのに「レバノンには希望がない」とため息をつきます。
この人たちは財布が怪我をしたパターンでした。

 

ケース5:消防士の妻
この人は自分が被害にあったわけではないのですが、現場に駆けつけた消防士のなかに家族がいたのです。
兄、いとこ、そして夫の3人は爆発の犠牲になったそうです。
「以前はうちには頼もしい男たちがいた。今はだれもいない」と嘆くばかりです。

 

ケース6:ダイバビングインストラクター
この人は今までとすこし毛色が違います。
ロックダウンの真っ最中に船を出し、ダイビング中に被害にあったのです。
いや……その……ロックダウン中に……ダイビング……?
ロックダウン中にダイビングをしていたり、結婚式をしていたり、レバノンのロックダウンはどういうシステムになっているのでしょうか。
番組の雰囲気的によくない行為を指摘する感じはなかったので、おそらくやってもよかったのでしょう。
コロナ対策の国による違いが見て取れます。

 

その他にも医者や活動家などのインタビューが語られます。
長い経済不況にあるレバノンはコロナ禍に襲われ、さらに首都での壊滅的な爆発事故に見舞われました。
レバノンは滅亡した」とか「もともと死にかけだったところにトドメを刺されただけ」など、悲観的な意見が多く聞かれました。


まあそうなりますわな……。
むしろ大怪我をして店がぶっ壊れて、自宅も半壊しているのに笑顔を浮かべる余裕のあるカフェのオーナーのほうが珍しいタイプでしょう。


不況を克服できず爆発物を放置した政府による人災なのですが、そちらサイドを糾弾する内容ではなかったので「お気の毒に……」としか言いようがありません。
以上です。