『ものがたりいちば』

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映画『空に住む』ネタバレあり、あらすじ感想

2020年日本映画
監督:青山真治
主演:多部未華子

 目次です。好きなところから読めます。

 

【序盤のあらすじ】

主人公の小早川直実は両親が急死したため仕事を休職して事後の対応に追われる日々を送っています。
49日の法要が終わって一段落つくと、叔父の所有する高級タワーマンションの39階に引っ越しをしました。
よくわかりませんが、どうせ港区です。


なんと叔父の厚意で、家賃はタダです!
しかしながら「タダより高い物はない」と昔の賢者が言ったように、このセレブ生活には後々弊害も出てまいります。


直実は勤務する零細出版社に復帰しました。
オフィスは田舎にあり、どう見てもただの民家です。
復帰すると、さっそく問題が起こっています。
文学賞を受賞した看板作家の吉田の新作を「書き下ろし」で出すか「雑誌連載」で発表するかで、吉田と編集部が揉めているのです。


「傑作を書きあげた」という自負がある吉田としては早く世に出したいので、単行本の出版にこだわっています。
いっぽう編集長の柏木としては「次の作品をじっくり練り上げてほしい」という思いから、言い方はわるいですけど、時間が稼げる雑誌連載にしたいのです。
と申しておりましたが、実際のところはわかりません。


本音では「受賞作家に育ててあげたんだから、雑誌の部数を伸ばすことに貢献してほしい」と思っているかもしれません。
この映画のキャラクターは本音を語らない人が多いので、発言を素直に信じるわけにはいかないのです。


休職前は吉田を担当していた直実も立ち会って話し合いになりますが、吉田の決意は固く、「もし書き下ろしじゃないなら他の出版社に持ち込む」と脅しをかけてきました。
今や受賞作家様なので強気ですw
看板作家に逃げられては大打撃ですので、編集部としては従うしかありません。

 

【直実を取り巻く人間関係】

復帰1発目から業界特有のいや~なイベントを経験してしまった直実ですが、他にも問題があります。
直実を取り巻く人間関係が複雑なのです。
というか、複雑な人間と付き合いがあるのです。


まず後輩の編集者の愛子ですが、できちゃった結婚を控えています。
しかしお腹の子の父親は婚約者ではありません。
なんと、相手は担当している吉田(既婚子持ち)なのです。
いいんです、受賞作家は弱小出版社の担当編集に手を出してもw


おまけに妊娠8か月と周囲には言っていますが、じつはもう臨月だそうです。
濃いセックスをした日から逆算するとバレるので嘘をついているのでしょうが、産んだらバレるので無意味な嘘です。
愛子の場合、直実に本音を話しているように見えますが、いまいち「本気じゃない」感が漂っています。
平たく言うとバカなので、本音だろうが嘘だろうが、信用できません。


愛子はこの事実を隠し通して子どもを産むつもりですが、直実に自分から暴露してきたので、こういう人間はきっと他の人にも話してしまうことでしょう。


次に複雑な人は叔父の妻、明日子です。
叔父の雅博とはかなり年の差があり、元キャビンアテンダントです。
お金持ちの妻で専業主婦、子どももいないので、一見気楽なセレブ生活を満喫しているようですが、いつも酒を飲んでおり、間違いなくアルコール依存症です。


本人はどうやら子どもを持ちたいらしく、不妊に悩んでいるようですが、それが酒浸りの原因かどうかはわかりません。
もしくは子どもを欲しがっているのは雅博だけで、明日子は本心では子どもを望んでいないのかもしれません。
この人も本音を言わないので、発言の内容を信用できないのです。


多忙の雅博は仕事で家を空けることが多いので、明日子が酒浸りなことに気づいていません。
本人が酒浸りなだけなら他人に迷惑はかからないからいいのですが、同じタワマンに住んでいる明日子はなにかと直実の部屋にやってきます。


明日子としては直実の世話を焼いているつもりですが、部屋の鍵を持っていて勝手に入ってくるので、直実はだんだんうんざりしてきます。
だいたい叔父さんの嫁だから、はっきり言って他人です。
プライベート空間を侵害する権利などありません。
このように愛子と明日子という複雑な人たちに囲まれた直実にある日、出会いが訪れます。

 

【セレブマンションは芸能人が多い】

タマワンのエレベーターで人気のイケメン俳優の時戸と出会いました。
ある日、時戸は突然「オムライスを作って」と言いだします。
売れっ子俳優は知らない人に料理を作らせるのが当然の権利なのですw
なんか嫌な感じの売れっ子が多い映画です。


直実は部屋にあげてオムライスを作ってあげます。
もちろん下心がないわけがありません。
あわよくばイケメン俳優とそういうことになれるかもしれませんし、おまけに「売れる企画を持ってこい!」と編集長に発破をかけられているので、仕事にも利用できるかもしれないからです。


それ以来、時戸は気ままに直実の部屋にやってくるので、もちろんそういう関係になります。
時戸は詩人っぽくて思わせぶりな人生哲学を語るのですが、なにを言っているのか微妙にぜんぜんわかりません。
いいんです、売れっ子はかっこつけてとくに内容のないことを言っても聞いてもらえるからw
売れてないやつが同じことを言っても無視されるでしょう。


時戸としては同じマンション内に女を作れば、性欲解消に便利ですし、写真を撮られる危険もありません。
そんなわけで何度も通ってくるのですが、ある夜、明日子が勝手に部屋に入ってきたことで態度が急変します。


「他人が鍵を持ってるとかありえない。萎えたわ」と帰ろうとしました。
直実が「オムライス作るよ!」と引き止め工作にでますが、「卵嫌いなんだよ」と嘘をこいて出て行ってしまいます。


まあそりゃそうです。
勝手に他人が部屋に入ってくる女なんて、スキャンダルが怖い芸能人としちゃ危なくて付き合ってられません。
しかも芸能ゴシップに疎い直実は後から知ったのですが、時戸は女遊びが激しくてしょっちゅうスクープされていて、スキャンダルに悩まされているようです。


芸能人との夢みたいなセレブ恋愛は、こうして明日子のせいで終わりを迎えたのでした。

 

【愛猫との別れ】

15年も連れ添った愛猫のハルが体調を崩してしまいます。
病院で検査を受けさせると「悪性リンパ腫」でした。
医者が「環境が変わったストレスのせいかもしれない」と言うので、直実は天空御殿に引っ越したことを後悔しますが、その後もハルの病状はどんどん悪くなっていきます。


そんなある日、愛子の結婚式に出席していて不在の際にまたしても明日子が勝手に部屋に入ってきていて、おまけに「ハルを置いてなに遊んでるのよ~」と皮肉を言ってきました。
酔っ払いの狼藉にがまんの限界を迎えた直実は「出てけ!」と追い出します。


結局、ハルはそのまま衰弱してお亡くなりになりました。
ハルの最期を看取った直実はヤケクソになったのか、ワインをがぶ飲みして部屋のものを片っ端から捨ててしまいます。
よくわかりませんが、たぶん明日子に関連するものでしょうw


ハルを失っても、直実はめげません。
時戸を部屋に呼びつけて、本の材料にするためのインタビューを敢行するのです。
ついでにムラムラしたので押し倒しておきました。
しばらくハルを弔えずにいたのですが、新しい1歩を踏み出したことでお別れする気になった直実は業者に頼んで火葬してもらいます。


業者の人に「死んだ者は星になったと考えることも可能」と慰められて、直実は目に涙をためました。
両親が死んだときにも、ハルが死んだときにも泣かなかったのに、初めて会った人の言葉で泣いたのです。
すっきりした直実は編集長に「時戸の本を吉田に書かせてください」と談判し、認めさせました。


ある夜、路上で破水した愛子に呼び出されましたが、なにを血迷ったのか愛子は「今は産まずに耐える。家族にも知らせない」などと言いだします。
母子ともに命が危ないので、直実は愛子を𠮟りつけて病院に連れて行きました。


無事、愛子は元気な女の子を出産し、出産予定日と2か月もずれているのに夫に気づかれなかったようです。
夫からすればいきなり「産まれた!」と報せを受けたので今は興奮状態でしょうが、冷静になったらすぐに気づくと思います。


帰宅した直実はすっかり見慣れた街並みを見下ろしながら、叔父夫婦の訪問をガン無視するのでした(笑)
おしまい。

 

【まとめ(られない)】

 ふだんわかりやすいエンタメばかりに触れているので、ちょっとこう、ね、よくわかりませんでした……。
わかりませんが、バカなりに脳みそを使ってみます。


たぶん20代(愛子)、30代(直実)、40代(明日子)と世代の違う女性のあれやこれやを描いているのでしょう。


人間は本音を言っているつもりで無意識に嘘をつくことがよくありますが、愛子はその典型例でした。
というか完全にファンタジー世界の住人でした。
もう敗戦が確定しているのに負けを受け入れられなかった第2次大戦末期の日本みたいな女です。


愛子は「結婚間近なのに担当作家の子を身ごもり、しかもそれを隠すために予定日を2か月偽っている」という状況がやばすぎて、現実を見ようとせずに「騙しぬく覚悟がないんすよ、多くの人は」などと強がりを言って逃避していました。
その証拠に「産婦人科医が予定日を間違えている」と信じ込んでいたのですが、そんなことがあるわけないです。


でもそう信じないと怖くてやってられなかったのでしょう。
バレたときにどう対処するか、ということを想像したくもなかったので、思考停止状態でした。
本来喜ばしい出産が日々迫ってくるというのは愛子にとって破滅の足音でもあったわけです。
本人は直実に本音で話しているつもりでしたが、現実を無視して「こうあってほしいという願望」を前提に発言していましたので、ファンタジーな嘘になっていました。


そのファンタジーを何か月も信じ続けた結果、「破水しているのに出産を2か月がまんできる」という、現実を捻じ曲げようとする無茶を言い始めてしまったわけですが、出産したことで現実逃避が解除されて「自分は最低な人間だ」と自己認識できた形です。


きっと新郎が2か月のずれに気づいて問題になるということも視野に入れられるようになっているでしょう。


直実は「他人に合わせてがまんする」というタイプの人間でした。
この場合も「愛子とは違う形で自分に嘘をついていた」わけですが、ハルの死を受け入れてから自分に嘘をつくのをやめます。
鬱陶しい明日子をシカトするようになりましたし、愛子に「最低な人間」と本音を言いました。
さすが主人公なので、わかりやすくてありがたいです(笑)


問題は明日子です。
他の2人はいいか悪いか知りませんが、変化しました。
明日子は違います。
違う、というか変化量が少ないのでよくわかりません。


一応序盤から「子どもが欲しい」と言っていたのが「子どもはいなくてもいいかなって思い始めた」と変化を見せるのですが、どちらが本音かわからないままでしたし、心境が変化したきっかけもわかりません。


もしかしたら子どもを望む雅博のプレッシャーから逃れるために酒に溺れていたのかもしれませんが、よくわかりません。
もしかしたらたとえ妊娠できても出産するにはリスクのある年齢になってきたことで悩んでいたのかもしれません。
たぶん他の2人と同じで自分に嘘をついているとは思うんですけど、なにをどう嘘をついているかわかりませんでした。


このキャラは複雑すぎてギブアップです!
ギブアップはしましたけど、明日子がいちばん印象に残りました。
「おもしろい!」とか「つまらない!」とか軽々しく言えない感じが、芸術点高めの映画だと思いました。
以上です。