『ものがたりいちば』

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「サバイバルファミリー」の感想


サバイバルしないサバイバルムービー(!?)

 

 

2017年日本映画。ジャンルはサバイバルシミュレーションコメディ。
監督は「スウィングガールズ」などの矢口史靖。コメディの達人です。
主演は小日向文世。コメディ得意です。
ネタバレは影響ないでしょう。タイトル通りです。
電気文明が崩壊した世界で生き抜こうとする平凡以下の家族を描いた映画です。

 

 

・序盤のかんたんなあらすじ
鈴木家は父(小日向文世)母(深津絵里)兄(泉澤祐希)妹(葵わかな)の4人で構成される平凡な家族です。


父は仕事一筋で他はなにもできませんが、やたら高圧的です。思考力が低めです。10段階評価で☆2です。


母は温和ですが料理能力が低め。思考力も低めです。☆2です。


兄は大学生でコミュ力低め、家族とあまり会話しません。やっぱり思考力は低めです。☆3です。いちばんマシ。


妹はスマホ中毒の高校生で、基本的になめた口ばかりききます。当然思考力は最低です。☆1です。


このように家族仲はあまりよくありません。
その鈴木家はある朝、全員寝坊してしまいます。
なぜなら目覚ましのアラームがひとつも作動しなかったからです。
電灯もテレビもぜんぶ動きません。水道も使えません。


最初、家族は停電だと思いましたが、バッテリー駆動のスマホや電池式の時計もすべてもれなく止まっているので、ただの停電なわけがありません。
でもこの家族、なんと気づきません。


先述したようにもともとの思考力が低いせいですが、寝坊したせいであわただしく朝の支度をしている最中のことでしたので、これくらいならしょうがないかもしれません。


父兄妹は通勤通学のために自宅マンションを飛び出ますが、電車が動いていません。それだけならともかく、タクシーやバス、一般乗用車もすべて止まっています。

さすがに停電ではなく電気消失だと気付いてほしいと観客が思いはじめる頃です。でも気づきません。

なんでやねーん!


会社や学校も停電しているので、一家の予想よりずいぶん被害範囲は広そうです。
マンションに残った母はご近所さんと情報交換します。

ご近所さんのなかにはまともな思考力の持ち主がいたので、水や調理不要な食糧、それからなにより夜に備えてロウソクを買いに行こうとします。

電気が消失しているので、電池式懐中電灯や電気ランタンも使用不可ですので、これは適切な判断と言えましょう。
「すぐに停電は直るでしょう~?」などと甘い思考力を披露していた母も主婦友たちが一斉にスーパーに走ったので、あわててついていきます。


一方、通勤通学組もさすがに仕事にも授業にもならないのでみんな帰ってきます。
そして最初の夜を迎えました。
夕食はレトルト食品ですが、ふだんから母の料理はレトルト未満みたいなもんしか出てなかったのでとくに文句は出ません(!)。

 

夕飯を終えたあと、母はベランダに出て空を見上げました。
街の明かりがすべて消えているので、満天の星空が広がっています。
家族を呼び寄せて「たまにはこういうのもいいわね~^^」などとのんきな文明ボケ発言をしていられたのもここまで。
数日が過ぎると数々の問題が発生して、さすがのボンクラ鈴木家も危機に気づきはじめます。


あっという間に水が不足しました。保存のきく食糧も底を尽きかけています。

季節は冬ですが、暖房器具の灯油も枯渇しました。

輸送網が全滅しているのでコンビニやスーパーから水、食糧がきれいに消えました。


マンションの住民たちが緊急町内会を開きますが、まともな思考力をもっている家族はすでに東京を捨てて逃げ出しています。
近所のひとり暮らしの老婆が孤独死したのをみて、ようやく一家の主である父が決断します。
「水も食糧もない東京にこのままいたら餓死する。移住する」
子どもたちがぐずぐずと甘ったれた文句を言うのですが、父の決意は揺るぎません。
ようやくですか!と観客も父の覚醒に期待します。
ところが、そのあとに驚愕の発言が控えているのです。


「ママの実家なら水もある。漁師だから食糧もある。だから羽田空港に行って飛行機で鹿児島に向かおう!」


ズコー!
え、なんで?電気が消失してるのよ?一週間以上たってるんですけど!
「車も動かねーのに飛行機なんか動くわけねーだろがっ!」
と、家族の誰かがつっこむものだと観客は確信するのですが、そんなことを期待してはいけません。
だって思考力も低めですし、状況分析力もほぼゼロです。


というわけで、鈴木家はチャリをきこきこして羽田空港につきました。
そこではモンキーのあやしげな集会が開かれていました。
鈴木家と同レベルの思考力しか持たないモンキーたちの大群が押し寄せ、動くはずのない飛行機に乗せろ、と暴動寸前になっていたのです。
ここに至ってようやく鈴木家は現状を把握しました。
現在、まともに機能する文明の乗り物はチャリだけだということを。
一家は羽田空港から陸路鹿児島を目指すことになったのでした……。
チャリでいく!

 

 

――ネタバレ注意!――

 

 

 

鈴木家が愚かじゃないといけない理由がある度☆☆☆☆☆
鈴木家のことをさんざんバカだアホだとなじりましたが……あれ、いやまだでしたね。
あらためて、鈴木家は全員バカでアホなマヌケ集団です(断言)。
サバイバル世界で絶対に同行したくないクズどもです。
ウォーキングデッドみたいな苛烈な生存競争の世界に放り込まれたら即死級のモブキャラでしょう。


父は家族に威張り散らしているだけで、サバイバル能力も柔軟性もゼロです。

サバイバル世界だと荷物運びくらいにしか使えませんが、小柄で体力もないのでやっぱり使えません。決断力はまあまあありますが、その判断がぜんぶごり押しのうえに間違っているので使い物になりません。


母はおろおろし続けるだけで、魚もさばけないので使えません。

しいて言えば交渉能力が少しだけあります。


女子高生の妹は文句ばかりのガチ無能力者です。

崩壊世界では体を売るくらいしか役に立たないでしょう。


唯一、大学生の兄だけが多少のサバイバル能力や思考力があります。

壊れた自転車を直せますし、意外なところから水を確保してきたりします。飛行機が動いていない可能性を唯一指摘する思考力もあります。


つまり、兄以外は死すべき定めの愚か者です。生き残る理由がほぼありません。
物語中には鈴木家よりも優れた判断や行動をする人物が山ほど出てきます。
そういう人たちは、どういうわけか、さっさと映画から退場していくのです。

二度とでてきません。


「サバイバルファミリー」というタイトルですが、鈴木家にサバイバル能力はありません。
もし世界にこの4人しかいなければ3秒くらいで人類は絶滅したでしょう。
では、なぜ、力も知能も低い鈴木家は長く生きながらえるのでしょうか?


それは助けてくれる強いサバイバーと出会ったからです。


いつも与えてもらってばかりの本人たちがべつにサバイバルしていないのに、生存できる理由はそれです。
強い者が生き残るのはある意味当たり前ですが、それはただの生物界の弱肉強食という基本ルールです。
「助けあい」と言いますが、その配分はたいがい偏っています。


それでも、人類がただの弱小モンキー集団から進歩して地球を征服し、宇宙にまで手を伸ばせるほど繁栄したのは、誰かが誰かを助け続けてきたからでしょう。


自然界ではクズ同然である弱者の鈴木家――モブキャラが生き残る……それが動物と文明人類を分けたということなのでしょう。
モブキャラが生き残れなければ、人類は繁栄しなかったはずで、文明の偉大さを強調するためには、主役は無能な鈴木家でなければならなかった、ということだとわたしは思いました。
ちなみに、鈴木家は誰も助けません。そういうことだと思います。

 

 

にしても妹ふざけすぎ☆☆☆☆★
ちょっと前まで自分たちが餓死寸前だったのに、飢えた野犬を燻製肉で餌付けしようとします。
はぁ!?


徒歩で長い旅路をゆかねばならないので、食糧はいくらあっても困りません。

野犬に餌を与えれば、味をしめるかもしれない。

唯一現状を把握できる兄が止めるのですが、時すでにおすし……。


案の定、野犬はすぐに仲間を連れて戻ってきます。
戦闘力も勇気も皆無な一家はフルボッコにされて死にかけます。
ほんま、ええかげんにせえよ!?
さすがに、このキャラだけは擁護できません……。
ホラー映画だったら観客のストレス解消のためにまっさきに殺されるキャラですね。

 

 

なんてお上品なんでしょう度☆☆☆☆☆
崩壊世界を描いた作品で、これほど上品な作品を知りません。
死体がひとつもないのです。
暴行や強姦や殺人もみせません。略奪ですらうっすらとしか描きません。
人間同士の戦闘行為もありません。どれだけ飢えてもひとを襲いません。
というわけで、リアリティを求める方には不満かもしれません。
ですが、飢えたら殺してでも奪え、という作品はいくらでもあるので、じつにユニークです。

 

文明を守ろう!ありがたさを思い知ろう!