『ものがたりいちば』

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「はじまりへの旅」の感想

教育方針にはたして答えはあるのか?

 

 

 

2016年アメリカ映画。ジャンルは子育ての悩み。
監督はマット・ロス。
主演は「ロードオブザリング」などのヴィゴ・モーテンセン
ネタバレどうこうという作品ではないと思います。エログロはありません。

 

 

・序盤のかんたんなあらすじ
舞台は現代アメリカ。
キャッシュ家は奥深い森のなかで暮らしている奇妙な一家だ。
父のベンは朝から6人の子どもたちに様々な訓練を課す。
山を駆け上るトレイルランニングや筋力トレーニングで体を鍛え、ナイフ格闘術、野生動物の狩りなど、サバイバル術を叩き込んでいる。まるで軍隊の教練のようだ。


それだけでなく、ベンは子どもたちに大人でも読まないような難解な本を読むことを課し、その内容について議論させる。
子どもたちは森から出ず学校にも通っていないが、そこらへんの大学生よりも教養豊かで鋭い批判的精神の持ち主である。
実際、長男のボウは高校も出ていないのにハーバード、イェール、プリンストンなどの一流大学に合格するほどの学力だ。


資本主義社会から背を向けて人里離れた森のなかでひっそりと肉体と精神を鍛えてきた一家だが、ある日ベンはある知らせを受けた。
精神病で入院していた妻のレスリーが自殺した、という知らせだった。


妻の両親に連絡を取ったベンは義父のジャックと口論になってしまう。レスリーは遺言で火葬を望んでいたのだが、ジャックはキリスト教式に埋葬するの一点張り。
娘や孫たちに奇妙な生活をさせたことで元からベンを嫌っていたジャックは、葬儀にも来るな、と言う。もし現れたら警察に逮捕させてやる、と脅しまでかけた。


一度は葬儀に出ないと決めたベンだったが、愛するママとの別れができないことを残念がる子どもたちを見て考えを変える。
それにベンは日ごろ子どもたちに「戦え」と教えてきたのだ。
ベンと6人の子どもたちは、レスリーの葬儀のために住み慣れた森から旅に出るのだった。

 

 

――ネタバレ注意!――

 

 

 

子どもたちの能力偏りすぎ度☆☆☆☆☆
ナイフ一本で鹿を殺せたり、断崖絶壁をフリークライミングできたりと身体能力やサバイバル技術は目を見張るものがあります。
また、高校生が答えられない問題を8歳の子がスラスラ答えるほど教養面でも高い能力を有しています。
それだけでなく、狂信的なキリスト教信者を演じて警官をドン引きさせて追っ払うという機転もききます。
序盤でみせる子どもたちの能力はまさに超人的の一言。


しかしそのいっぽうで、同年代の子どもたちが知っていることをぜんぜん知らないという側面があります。
ナイキ、アディダス、XBOXを知りません。
驚くべきことにコーラすら知らない子もいます。

(ほんまアメリカ人かこいつら……)
ちなみに「パパーコーラってなにー?」と聞かれたベンは「ポイズンウォーター(毒の水)」と答えました(笑)。
このように硬い本ばかり読んでいるので、固有名詞や哲学知識などは豊富ですが、商品名はぜんぜん知りません。


また、高校卒業生相当と思われる年齢の長男ボウは、旅の途中で出会っていい感じになった女の子とキスをしたとたんに舞い上がってしまい、なんと即日求婚してしまいます(嘘やろ……)。
ちなみにこのボウは6か国語を操り、ハーバード余裕の秀才です。
幸い相手はジョークと受け取ってくれましたが、ボウは変人と思われたとショックを受けました。
とまあ、情操教育の面でもだいぶ遅れています。


中盤、ベンの妹(このひとはふつうの社会生活者)が子どもたちを学校に通わせるべきだ。このままだとなにも知らずに社会に放り出される、と主張します。
それに対してベンは妹の高校生の子どもと自分の8歳の娘の教養対決をさせて、8歳が圧勝、妹が負けを認めるという場面があります。


後半になればなるほど超人と思われた子どもたちが社会に適応できなさそうな歪さを抱えている描写が増えていきます。
また子どもたち自身がそのことに気づき、盲信していたパパに疑いを持ち始めるのです。
育て方の悩み問題が、本作のテーマだと思いました。


ゲームばっかしてて教養ゼロのアホ高校生は、ナイキやアディダスは当然知ってます。
8歳にして憲法を暗記している子どもは、コーラも知りません。
どちらが子どもにとっていいことなんでしょうか、かんたんに答えの出る問題じゃないですね……。

 

 

思想的妥協では済まされない身勝手さ☆☆☆☆☆
序盤からベンは矛盾の塊です。
資本主義消費社会を悪とみなしているわりに、立派なキャンピングカーや携帯を持っています。
定期的に街に下りて行って必要な物資を買いこんでます。
こういうのは頻度の問題なんでしょうか?


いつも医者や製薬会社は病人を搾取してるだけと子どもたちに言い聞かせていたベンは、妻のレスリーの精神病の病状が悪化したとき、結局病院に入院させました。
さらに仲の悪い義父のジャックに入院費を出してもらっていたのです。


おまけに旅の道中で子どもたちにスーパーで盗みをさせています。

お金がなかったわけではありません。直前にお金を引き出しています。大手スーパーで買い物するという行為を嫌ったのでしょう。
消費社会が悪で、盗みはOK?
わけわからん……。
ベンの思想信条が浅すぎて、なんの主義者なのかさっぱりわかりませんでした。
偏狭な思想者の破綻を描きたかったにしても、もうちょっと筋が通ってたら共感できたかもしれません。
身勝手な洗脳教育に毒された子どもたちの哀れさを描こうとした、とも取れます。


でも、ちゃんと大人顔負けの教養とか健康で強い肉体とか、多くの子どもがもっていない強さは与えているんですよね。
やはり、教育方針を決めるのは難しいですね……子どもいないから知らんけど。

 

 

子どもたちの美しさ☆☆☆☆☆
役者のみなさんあっぱれ!
日々鍛えられて健康的で美しい子ども、というのを体型や演技で十二分に示しています。
きっと事前にかなりトレーニングを積んだことでしょう。外国語のセリフも淀みなく発声してました。
ただ、兄弟なのにあんまり似てないけど。

 

序盤はどういうストーリーなのか想像ができず、わくわくしました。
なんかやべえ思想の厳格な父親が子どもたちを超人に育て上げようとしてる、っていう展開はよかったんですけど、せっかく鍛え上げた能力が現代社会ではたいして役に立たなかったっていう、わりとわかりきった展開に……。


そらまあ、コーラも知りません、PCスマホ使えませんじゃ、現代社会じゃ強者にはなりえないでしょうよ。
もうちょっと軟弱な都市生活者相手に原始的な強キャラぶりを見せつけて俺らTUEEEEEE!!をやってから、じょじょに欠点を出してくれれば、視聴者としても共感できたのかもしれませんが。


都市に出てからは「まあ、原人が現代に来たらそうなるよね……」という感想ばかりで、軟弱な現代人をとっちめてスカっとする展開がなかったです。
というか、そういうわかりやすいエンタメ映画として作ったんじゃないんでしょう。
やっぱり教育方針を問う真面目な映画ですね。


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序盤はおもしろいです!