『ものがたりいちば』

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「スーパーサイズミー:ホーリーチキン」の感想


「心臓発作で死ぬということは、鶏が順調に育っている証拠です」
↑なに言ってんだこいつ?

 

2017年アメリカ映画。ドキュメンタリー。
監督・主演・脚本モーガン・スパーロック
この映画の前作にあたる2004年公開の「スーパーサイズミー」でも監督・主演を務めました。


「30日間毎日3食マクドナルドのスーパーサイズセットだけを食べ続けるとどうなるか?」

という体を張った実験を記録し、じょじょに体調を崩していくさまを見せつけて、全世界にゲロをぶちまけている姿を晒しました。


結果的にこの映画は大ヒットしたので、世界は本物のゲロを見たがっていたのです!


さて、なぜファストフード業界の闇を全世界に告発(ゲロ)した男が十数年の時を経て、同じ業界をテーマにした映画を作ったのでしょうか!?

 

 

・序盤のかんたんなあらすじ
地獄のスーパーサイズセットから離れて平和な日々を送るスパーロックのもとにある依頼が舞い込みます。
それはファストフード業界からのCM出演依頼です。


もう一度書きます。ファストフード業界からのCM出演依頼です。


かつて全世界を支配していたファストフード業界に喧嘩を売った男のもとにです。
なんかのジョークかと思ったスパーロックは、現在のファストフード業界について調べてみます。


すると、彼が命を削って告発したファストフードの不健康さは、ほとんどなにも変わっていなかったということがわかりました。しかも悪いことにあいかわらず不健康な食品を、まるで健康食品かのようにうたっていたのです。


なん、だと……。


スパーロックは決意します。
あれだけやってもダメだったなら、もう俺がファストフード店を作って、人気店にして業界を乗っ取るしかないっしょ!?

 

 

ひよこかわいい度☆☆☆☆☆
2800羽もの大量のひよこを手に入れたスパーロックは、ある養鶏農家に間借りした倉庫で育てはじめます。


インプリンティングのせいで母鳥と思っているでしょうか、スパーロックにひよこたちがついてきます。


かわぃぃ……。


でもぴよぴよがうるさすぎてわたしは軽く発狂しそうになりました。あと、やたらと足元に寄って来るので踏みつぶしたりもします。かわぃそぅ……。

 

 

ドキュメンタリー度☆☆☆☆★
前作はエンタメとしてはおもしろかったですが、ドキュメンタリーとしては弱かったです。


真の巨悪である、砂糖だらけの飲料水を売りつける業界に攻撃対象を変えられなかったからです。


本作がドキュメンタリーとして優れているのは、取材の途中で新たに見えてきた闇をきちんと拾っていることです。

 

スパーロックの当初の行動方針。
1、自分の養鶏場をもって、自家製の鶏肉を作る。
(なぜなら鶏肉がヘルシーだと思われているから)


2、その鶏肉を使った健康的なサンドイッチを自分の店で出す。
(なぜならハンバーガーは不健康だけどサンドイッチは不健康と思われていないから)


3、めちゃくちゃ大ヒットさせて、全米に店舗を広げて不健康なファストフード店を駆逐してやる!

 

この行動方針は、あっという間に破綻します(!?)。


外食産業の偉い人たちや、コンサルタント、そして、なによりも消費者本人たちに話を聞き、実際に自分で金を払って食べてみたところで、ファストフードや健康食品を取り巻く本当の闇が見えてきたからです。


明らかになったことは、凝縮すると下記の2つになります。


・本当に健康的なものは値段が高すぎて絶対にヒットしない。あとおいしくない……。
・消費者は健康っぽいものを求めているフリをしてるだけで、実際には体に悪くてもおいしいと感じるものを選ぶ。
・ファストフード業界は、消費者が望むファンタジーを用意しただけであった。

(3つだった!!!)


というわけで、スパーロックの目論見はあっという間に破綻しました。


なぜなら、消費者がつねに健康的なものを求めているはずだという思い込みが的外れだと気付いたからです。


さらにスパーロックは自分の養鶏場を持とうとする過程で意外な闇にぶち当たります。


鶏肉業界です。
はっきり言ってこちらが本編です。
アメリカの鶏肉業界は、なんと、奴隷制だったのです!!!!!

 

 

先進国を蝕む闇、経済奴隷度☆☆☆☆☆
「ビッグチキン」と呼ばれる大手の5社企業が鶏肉業界のすべてを支配していて、養鶏農家を搾取しています。


・ビッグチキンが契約農家にヒヨコを送ります。


・契約農家はヒヨコを選べません。質の悪いヒヨコが送られてきたら、損します。運ゲーです。


・成長した鶏は、ビッグチキンの不鮮明な基準で評価され、報酬額も勝手に決められます。


・評価基準が不安定なので、農家の収入も不安定です。


・再度契約を結ぶときには、必要のない設備や機材を売りつけられます。断ればヒヨコが届きません。ピヨれません。


・結果、農家のほとんどは借金まみれで、廃業することすらできません。休みなんてありません。みんな泣いてます。


・さらに、スパーロックの撮影に協力した農家は契約してもらえなくなりました。ピヨピヨ聞けません。

 

……

………なにこれ?


冒頭に記した「心臓発作で死ぬということは、鶏が順調に育っている証拠です」というのは、スパーロックに協力した農家の発言です。


品種交配を徹底した結果、現在のブロイラーは成長速度があまりにも速すぎて、大人になると心臓発作で死ぬのがデフォルトらしいのです。

 

成長促進剤のクスリ漬けになっているからでも、運動不足だからでも、化学飼料のせいでもありません。DNAがそうなっているから、生まれた瞬間に決まっている……。


管理人は前作の「スーパーサイズミー」があまり好きではありません。
いや、ゲロぶちまけるシーンは好きなんですけど!


だって、見る前からわかっていることがおもしろおかしく描かれているだけで、予想もしなかった新しい知識を得られなかったからです。監督本人の体を張った演技を楽しむだけでした。

いわゆる芸人のリアクション芸みたいなものですね。


ですが本作はちがいます。ちゃんと驚きがありました。
結末でスパーロックが開いた店も皮肉がきいていてよかったです。


彼は結局、体に悪いフライドチキンバーガーを売ることにしました。
健康的な要素は一切ありません。ほかのファストフード店とほぼ同じ品質の不健康な食品です。


ただひとつ違うのは、彼の店には食材や調理法についてすべて真実が書いてあるのです。


「フライドチキンというと印象が悪いのでクリスピーと呼ぶことにしましたが、調理法は同じで、不健康です」
こういったメッセージが店のいたる所に書いてあるのです。


ドキュメンタリー作家として着実にレベルアップしてると感じました。

次回作に期待です!!


でも、マイケル・ムーア華氏911の監督)なら、奴隷同然の扱いに涙している農家のおっちゃんたちを連れてビッグチキンの本社に突撃したと思います。巨悪の本丸に乗りこんだことでしょう。


取材の過程で巻きこんだ以上、取材対象者の現状を変えようとする。マイケル・ムーアが優れているのは、そういうガッツです。


マイケル・ムーアの域には達していませんが、おすすめです!