ユーモアと余計な一言は紙一重。言い争いもここまでいけば芸。
2018年アメリカ映画。ハートフルコメディ。
監督はショーン・アンダース(よく知りません)。
主演は「トランスフォーマー」などのマーク・ウォールバーグ。
ネタバレ憲法違反案件ではありません。結末を知っていても問題なく楽しめる作品です。
子どものいない夫婦が思いつきで養護施設から里子を引き取ってみるものの、問題だらけでさあどうなる!?
という内容です。笑いあり、涙ありの良質コメディとなっております。
しかし、人を容赦なく殴ったり撃ち殺したりする映画ばかりに出ていた永遠の乱暴者マーク・ウォールバーグがこんなウェルメイドなハートフルコメディに出るようになるとは……感慨深いです。
まあ、本作でもちゃんと殴りますけど(!?)。
・かんたんなあらすじ
内装工事業者を営むピート(マーク・ウォールバーグ)とエリー(ローズ・バーン)の中年夫婦は、充実した生活を送っているものの、どこかマンネリを感じていました。
子どもはいません。
お互い欲しがってこなかったのです。
ピートは子どものときのトラウマから、41歳の自分が子どもを持つと高齢の親になってしまうことを嫌がっています。エリーも積極的には欲しがっていません。
ある日、夫婦は新しく広い家を手に入れました。
格安で手に入れたボロ家を自分たちで新品同然に改装します。二階建ての大きな家は二人暮らしには広すぎます。
そんなとき、ピートが冗談で言った「5歳の養子でもとるか」という発言をエリーがマジにとってしまうのです。
この夫婦、おしゃべりが大好きでしょっちゅう冗談を飛ばしあっているのですが、お互い単純で、相手の冗談を本気で受け止めてしまうことが多々あります。
しかも思いつくと速攻で行動に移す悪い癖があるのです。
エリーはさっそく里親斡旋のグループに登録して、オリエンテーションに参加する予約をしてしまいます。
オリエンテーションでは、さまざまな里親希望者たちと出会います。
神に導かれてやってきた敬虔なキリスト教信者の夫妻。
男ゲイの結婚者カップル(男同士、女同士の結婚者を表現する漢字表現がないことに戸惑っております。日本語遅れとるわ~)。
将来NBAのプロバスケ選手になれるような身体能力抜群のアフリカンの子どもを探しているシングルマザー希望者の女性。
個性的な面々です。
興味本位で里親活動に参加したピートたちでしたが、里子候補の子どもたちとの交流集会(公園でいろんな子どもたちと話して、気になった子どもの名前をリストアップするというほぼ街コンみたいなノリです)に参加して、ある少女と出会います。
里親希望者のほとんどは幼児から十歳以下を希望しており、ティーンエイジャーには目もくれません。
その年齢なら自我が確立してこじらせているに決まっています。
わざわざ地雷処理を引き受けたくはありませんからね。
そんなわけで十代の若者たちは会場のはしっこに固まって、里親希望者たちから無視されていました。
ピートはなんとなく気になってその子たちに話しかけに行こうとしますが、エリーが止めます。
「ドラッグとか、マスターベーションとか、そういうのめんどくさいから、ちっちゃな子にしよう?」
「あのゴミためみたいな姿みてみろよ、かわいそうだろう?話かけてやろう!」
2人は大声で言い争いをします。
この夫婦、思ったことを全部言っちゃうし、基本大声なので筒抜けです。
それを聞いたリジーが言います。
「全部聞こえてるんだけど、私たちはもう求められてないってわかってるから、同情なんかしないで小さな子たちと話しな?」
その聡明で、でも悲しい言葉を聞いたピートはビビっときてしまいます。
リジーを引き取りたいと里親センターに申し出ます。思いついたらすぐ言葉にしてしまうのです。
ところが、リジーには弟と妹がいたのです。
基本的にセンターとしては兄弟を同じ家庭で引き取ってもらう方針をとっています。後に引けなくなったピートは承諾します。
というわけで、5歳、10歳、15歳という3兄弟を引き取ったピートとエリーは生活がいっぺんして、暴風のような毎日に叩き込まれます。
さあ、このインスタントファミリーはどうなってしまうのでしょうか!?
セリフのセンス良すぎ度☆☆☆☆☆
とにかくコメディとしておもしろいです。
基本的に登場人物は善良なのですが、冗談好きで一言多い人ばかりです。
なかでもピートとエリーの夫妻はやばいです。笑いながら地雷踏みまくります。きっとまっすぐに育ちすぎたのでしょう。あんまり空気が読めません。
彼らの家族や里子の3兄弟もかなり個性的でユーモラスです。
個人的にアメリカンコメディは声をあげて笑えるというよりは、鼻から「ふんっ」と空気が出るくらいのヒットしかしないことが多いのですが、本作のやべえセリフの応酬は笑えました。
リジー美少女度☆☆☆☆☆
ガチです。これだけでも一見の価値があります。
こんな美少女が不遇な境遇にいるのなら、一刻も早く保護しなければなりません。
目力の強い褐色のラテン系の美少女が好物のひとなら、必見です。
中盤で、ピートやエリー(肌の白い白人系)と大衝突するのです。
アジア人の管理人からみたらどっちも肌の色がちがうだけで白人(コーカソイド)にしかみえないのですが、アメリカにおける白人というのはアジア人とは基準がちがうようです。
いわゆるWASP(ホワイトアングロサクソンプロテスタント)が白人で、ラテン系がマイノリティという扱いだそうです。
そこらへんを踏まえておくと多少わかりやすいかも?
感動だけではすまない恐怖☆☆☆☆☆
両親の死去、もしくは虐待などの理由で親元で暮らせない子どもが全米で50万人以上いるそうです(!)。
多くの子どもは養護施設で暮らすそうですが、善良な里親に引き取られるラッキーな子もいて、もっとラッキーだと養子になって本当の家族になれるそうです。
ただ、養護施設には在籍期間に制限があるらしくて、十代の子どもの多くはホームレスになったり、犯罪にまきこまれて刑務所送りになったり、かわいそうなことに死んでしまうとのこと。
本作の監督は3人の里子を預かった経験から、この映画を思いついたそうです。
終盤、リジーたちの母親が刑務所から出てきて親権回復の申し立てをします。
ちょっと信じられませんでした。
娘たちのいる自宅でコカインの精製工場をやっていた薬物中毒者が、出所後数か月保護観察を受けただけで子どもたちを養育する。
いや、無理だろ……。アメリカの法律どうなってるかわからんけど……。
子どもの虐待問題は、近年の日本でも重大な関心事となっております。
閉じこめられて餓死させられたり、暴行死させられたり、痛ましい事件は枚挙につきません。
そこで、ちょっとだけ調べてみました。
「日本こども支援協会」という支援団体のサイトには、現在約45000人の子どもが親と暮らせない状況であると記されていました。
(2020年10月3日現在)
45000人???
少なすぎない?????
アメリカの人口は約3億人。親元で暮らせない子どもは約50万人。
日本の人口は約1億2000万人。親元で暮らせない子どもは約4.5万人。
人口比が2.5倍程度なのに対して、不遇な子どもの比率が10倍以上。
あれ……なんか、おかしい……?おかしくない……?
単純に人口で比較すれば、わが国にも20万人近くの不遇な子どもがいてもおかしくないはずです。
それとも世界一の超大国アメリカってそんなにひどい国なんですかね?
……恐ろしい想像ですが、親元で暮らしてはいけない、本来なら救い出されるべき子どもの認定が、日本では緩すぎるのでは?
もしそうなら、カウントされていない15万人の子どもは、いったい、どこで、どう暮らしているのでしょうか?
この映画は他国の映画ですが、個人的に自国のことを顧みるきっかけになりました。
・まとめ
最後のほうの感想を急にホラー展開にしてしまいましたが、ふつうに笑って泣ける、いいコメディ映画です。
他国の視聴者に自国の不遇な子どもへの関心を呼び起こしただけでも、価値のある映画だと思います!