『ものがたりいちば』

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映画「Fukushima 50」ネタバレあらすじ感想『金曜ロードSHOW!』

2020年日本映画
監督:若松節朗
主演:佐藤浩市

 

いつもジブリとディズニーばっか放送している日テレさんありがとうございます!
最近金ローはいろんなジャンルの映画をやるようになりましたね。
いいと思います!


なお、わたしは原子力や危機管理についてド素人ですので、あくまで映画の描写から感想を書いたという点をご了承ください。

 目次です。好きなところから読めます。

 

序盤のあらすじ


2011年3月11日。
宮城県沖で発生した大地震福島第一原発にも影響を及ぼしました。
震度6強という強い揺れのために、1・2号機の制御責任者の伊崎当直長(架空の人物)は原子炉の緊急停止を部下に命じます。


ここでびっくりしたのは、核反応を止めるための制御棒を手動でスイッチングしたことです。
地震のときの緊急停止はコンピューターが自動でやっているものだと思ってました。


制御棒は無事作動し、原子炉の核分裂は停止を始めます。
吉田所長の指示により、現場作業員たちが地震の影響を調べているなか、10メートル以上の大津波が襲来しました。


これにより原子炉建屋に大量の海水が浸水、全電源が喪失という緊急事態が起こります。
原子炉に水を送りこむポンプが完全に停止してしまったため、炉内の温度が上昇し始めてしまいました。


以下、素人が当時理解した核分裂原子炉の問題点ですのでスルー推奨です。
科学的正確性を保証しませんので、あらかじめご了承ください。

 

原子炉というのは、核分裂によって生じる熱で水を蒸発させ、その蒸気でタービンを回して発電するメカニズムです。
事故が発生するまでは『未来の技術!クリーンエネルギー!』などと喧伝されていましたが、結局沸かしたお湯で発電するので、じつはテクノロジー的には古い技術を応用したものに過ぎません。
核分裂の問題点は一度分裂を開始してしまうと『つねに冷やし続けないと勝手に反応を繰り返し、高温化し続けてしまう』ということです。
よく例えられるのが車のブレーキとアクセルの関係です。
ふつう車はアクセルを踏まなければ勝手に止まります(とりあえずクリープ現象はないものとします)が、原子炉の場合ブレーキを踏み続けなければ止まらないのです。
このブレーキの役目を果たすのが制御棒と水の注入です。

 

 


というわけで、全電源喪失によるポンプの機能停止は、暴走状態を意味します。
いずれ炉内の水は蒸発しきって、空焚き状態になったむき出しの燃料が溶解する――メルトダウンが発生してしまいます。


この緊急事態を受けて、現場、東電本店、総理官邸に緊急対策室が設けられました。
最優先事項は電源の回復ですが、福島第一原発はろくな備えをしていなかったため、予備の設備がありません。
嘘だろ……?


もちろんさすがの東電とはいえ予備の電源設備くらいはあったらしいのですが、津波がくることを想定しておらず、結局すべてが浸水して使い物にならなくなったそうです。
マジで嘘だろ……?


消防車を転用して格納容器に水を送りこもうとしましたが、津波にやられて1台しか使えません。
吉田所長は自衛隊に消防車を貸してくれるように、東電本店には電源車を送るように、と要請しました。


地震津波の影響で円滑に作業ができないなか、現場作業員たちは原発を復旧する命がけの戦いが始まったのです。

 

 

―――ネタバレ注意!と思ったけど、この事故の結末は全国民が知ってますね―――

 

 

 

ベント


さっき最優先事項は電源の回復だと書きましたが、ありゃ嘘です。
というか時間の経過にともなって状況が変化しました。


所員の車のバッテリーをかき集めて格納容器の計器を作動させたところ、格納容器内の圧力がやばいことになっていました。
このままでは爆発を起こして、放射性物質がまき散らしてしまいます。


というわけで、格納容器内の気体を外に排出して圧力を下げること=ベントが最優先事項になりました。
このベントは放射能を外部に放出する行為ですので、世界でも例を見ない異例のことのようです。


汚染が想定される地元住民の避難範囲を広げ、それが完了すればただちに行うこととなりました。
しかし、原子炉建屋は電源を喪失しているので、遠隔制御できません。


すでに放射能漏れを起こしているであろう建屋内に誰かが被ばく覚悟で入って、手動でベントするしかないのです。
伊崎当直長は、放射線の被害を受けやすい若い世代をさけて、メンバーを選びました。


事態を把握できずに業を煮やした総理が急に現場視察に入ることになりました。
一国の指導者を被ばくさせることはできないため、現場にはベントを待つように命令が下ります。


総理といやいや面会したうえにベントを急かされた吉田所長は「てめーのせいでベントが遅れてるんだよ」と言わんばかりにベントメンバーのことを『決死隊』と表現して揶揄しました。


うーん。
当時の現実世界でも『総理が思いつきで現場視察したせいでいろいろな作業が遅れて事態が悪化した』、という批判は多かったんですけど、この映画の設定では『住民の避難が完了するまでベントを行わない』という方針があります。


実際、ベントにGOサインが出たのは住民の避難完了が確認されたことがトリガーでしたから、総理視察の有無は関係ないですね。
これは『総理が邪魔したせいで』なんの落ち度もない現場の作業が阻害されて、状況が悪化したという構図を作るためでしょう。


現実の世界でベント作業が遅れたのは、マニュアルがなく、日ごろから手動での作業を想定した訓練もしていなかったため、どうすれば速やかにベントできるか現場作業員もよくわかっていなかったことが原因のようです。


悪質な印象操作なので、残念ながらこの時点でノンフィクション映画としての価値はかなり下がりました。
この他にも東電本店が徹頭徹尾無能で身勝手なものとして描かれます。
まあそれは事実なんでしょうけど(笑)


「電源がないなら電源車送るわ」って言って、電圧が合わないゴミ送ってくるってwww


邪魔者総理が帰ってくれたので、いよいよ危険なベント作業の開始です。
メンバー選定に当たって伊崎は志願制を取りましたが、最初のうちはだれも志願しません。
高齢者たちが志願し始めると、それに触発されて若い世代もつぎつぎに志願し始めました。


一見、感動の自己犠牲シーンに見えますが、妻と幼い子どもを養う立場の父親が「俺だけ志願しないって気まずくない?」とかっこつけて家族を見捨て、同調圧力に屈したという見方もできます。


決死の覚悟で第一陣が挑み、見事にバルブを解放して帰還しました。
しかし、伊崎当直長は、たった20分で作業員が被ばくした線量があまりにも多いことに驚愕します。


第二陣が出動しましたが、あっという間に被ばく線量が限界点を越えてしまったため、バルブを開けることを断念して帰還しました。
終わった……。


そこに応援としてやってきた5・6号機の当直長前田が、決死隊として再度ベントを開けに行くと志願します。
1号機で10年間も勤務していたので、被ばくしづらいルートを知っていると主張しました。


まだ若い前田を危険にさらすことに難色を示す伊崎でしたが、他に手段もないので、任せることにします。
前田たちが出発したのですが、そのとき吉田が考案した方法ですでに遠隔ベントに成功していました。


あわてて伊崎は前田を呼び戻しましたが、貴重な作業員が無意味に被ばくしてしまったのです。
吉田と伊崎の連絡ミスになった形ですが、このことで若い作業員が不満を爆発させました。


「現状もうやれることはないんだから、いったん避難させてください!無駄死にはしたくありません!!!」
と申し出ました。


よくぞ言った!!!


わたしはこの若手の勇気と合理的思考に拍手を送りたいです。
みんなで頑張ろうという同調圧力があるなか、なかなか言い出せないものだったでしょうに……。
ところが、伊崎はダメだと突っぱねます。


この原発事故のせいで多くの地元住民が家を捨てて避難を余儀なくされているのに、事故の当事者が逃げるわけにはいかないというのがその理由です。
とくにやれることもないのに???


事故の当事者というか、事故を引き起こした責任の一部を担っているはずの加害者側なんですけど、この映画は政府や東電本店を無能な加害者として描くいっぽう、現場を徹底的に天災の被害者側として描き、批判をいっさいしません。


ここらへんでわたしはノンフィクション映画として観るのをやめました。
自己犠牲を強調したエンタメ映画として観るのが正解だと思いました。


さらに、福島で生まれ福島で育った伊崎ら生粋の福島人は、郷土愛を発揮して「故郷を守ろう!」という正論を盾にして、逃げたがっている若手を説得します。
さきほど伊崎が若手を被ばくさせないようにと腐心していたのはただのフリ、かっこつけでしたね。

※あくまで映画内の描写についての考察です。


地元の住民を職員として採用するメリットが、いざというときにあらわれた形ですね。
外から来た人間は愛着もない土地に忠誠を尽くす理由などありませんから。
このパワハラに屈した若手は、死地に縛られることになりました。


※しつこいようですが、あくまでフィクション全開の映画への感想です。
現実の現場でどのようなやりとりがあったのかは知りませんし、それを批判する意図はいっさいありません!

 

 

さらに悪化する状況


1号機の原子炉建屋が水素爆発を起こしました。
原発放射線量が上がり、さらに現場作業は困難になります。


吉田所長は屋外の作業員を被ばくから守るために、いったん引き上げさせましたが、こんどは3号機の格納容器が危険な圧力に達してしまいました。
本店からの催促に屈して、3号機のベント作業に部下を送り出すのですが、3号機の原子炉建屋も爆発し、多くの作業員が巻き込まれてしまいます。


命からがら逃げてきた作業員たちは「安定してるって言ってたじゃねーか!」と吉田所長に詰め寄りました。
だれも詳細な情報を持っていないから仕方のないことなのですが、責任者は文句を言われるのが仕事です。


このことで現場の放射線濃度はさらに上昇してしまったので、吉田所長は東電職員ではない協力企業の職員と自衛隊員に避難するように指示しました。
しかし、自衛隊員は「民間人が残っているのに、国のために尽くすと誓った自衛隊が先に逃げるわけにはいきません!」と残ることを申し出ます。
あ~かっこええんじゃ~自衛隊~!


総理は、官邸のブレインから『もし原発を放棄すれば、首都圏は全滅、5000万人の避難民が生まれる』というてきとーなシミュレーション(笑)を提示され、しかも東電が原発からの撤退を考慮していると聞かされ、発狂します。


東電本部に赴いてテレビ会議で「逃げることなど許されない!」とわめき散らしたので、現場の職員たちは「なに言ってんだこいつ、だれが逃げるかよ」とモチベーションだだ下がりになります。


この映画は現場を勇者として描き、政府や東電幹部をアホとして描くエンタメ映画なのでそれをご了承ください。


2号機の圧力が危険領域まで迫っていることを知った吉田所長は、もう事態の収束をあきらめ、未来ある若い職員を避難させることにしました。


最後に残ったのは50人――Fukushima 50でした。


全員逃げだすわけにはいかないから残っただけで、べつにこの50人にやれることはありません。
あ、これ日本終わったわ……と観ているわたしは思いました。


2号機の格納容器が爆発すれば、福島第一原発も第二原発も近づくことができなくなり、チェルノブイリ原発事故の10倍規模の放射能で東日本の大半が汚染され、5000万人の避難民が生まれる破滅的な事態。


5000万人もの避難民が移住する余地など日本にはありませんし、そもそも移動の手段も資源もありません。
ほとんどの庶民は汚染区域と化した地元に住み続け、放射能の被害を受け入れるしかないのです。


ところが、突如として2号機の圧力が下がり、危機を脱しました。
「なぜ圧力が下がったのかはいまだにわかっていない」と映画では説明されていました。
ともかく日本は最悪の事態から脱したのでした。

 

 

遅すぎ度☆☆☆☆☆


もちろん、原発事故への対処のことではありません。

コロナ禍への対処が後手後手にまわったことと同じくは、だれも経験したことのない未曾有の事態だったかです。


遅かったのは、この映画が作られるまで10年もかかったことです。
2001年のアメリ同時多発テロを題材とした『ワールド・トレード・センター』という映画は2006年に公開されています。


他にもアメリカではベトナム戦争ものなどは、戦争中から制作、戦後まもなく公開されているのです。
日本はとかく意思決定のスピードが遅いと言われますが、事実をもとにしたフィクション映画の公開も遅いです。

 

 

エンタメ度☆☆☆☆☆


「事実をもとにした」と自信満々に宣言していましたが、脚色だらけの映画の描写内ですら印象操作が多々見受けられました。
ノンフィクションとしての価値はかなり低く、ドキュメンタリとしての価値はゼロ以下です。


そもそも映画の結論が「自然のパワーが強すぎたから!」というのでは、お粗末すぎます。
10年も経ったのに、情報不足の当時のふわっとした印象のままを描き、真相や責任の追及をしないのでは、この題材を選んだ意義がありません。


なので、実在の出来事を題材にした完全なフィクションエンタメとして観るのが正しい姿勢だと思います。

 

 

意外におもしろかった度☆☆☆☆☆


ベントが遅れたのは『地元住民の避難完了を待っていたから』という映画内設定があるにもかかわらず総理の視察のせいにしたり、と事実はともかく映画内で矛盾があったにもかかわらず、緊迫した現場の描写は迫真の連続でおもしろかったです。


邦画にありがちなエモーショナルなBGMをじゃんじゃん鳴らして無理やり感動させようというせこい手も使わなかったので、リアル感が維持されていました。

 

ノンフィクション映画としては「未曾有の人災に対していまだに責任を取っていない人物をいっさい糾弾しない」という腰砕けに終わっているただの美談ムービーに過ぎませんが、キャストも豪華ですし、フィクション映画としてはおもしろかったです。


この原発事案に尽力された方々に敬意を表し、この記事を終わりたいと思います。