民族紛争にまきこまれた怒りの異邦人の復讐劇。
2017年英中米合作映画。ジャンルはスパイアクション。
監督は「007」などのマーティン・キャンベル。
主演はジャッキー・チェンとピアース・ブロスナン。
ネタバレはできれば避けたほうがよいかと。微グロ注意です。
・序盤のかんたんなあらすじ
現代ロンドン。
白昼、ある通りで爆破テロが発生し、多数の死傷者がでる。
直後にUDI(アイルランド系の過激派組織)が犯行声明をマスコミに発表した。
何年も前に停戦合意がなされて解決したはずだった「北アイルランド紛争問題」の火種が一気に燃え上がる。
かつては自身もUDIのリーダーだったが、引退して穏健派となり、北アイルランドの副首相を務めているリアム・ヘネシー(ピアース・ブロスナン)はイギリス政府の高官から問題の早期対応を命令される。
官邸で犯人探しと政治的対応に追われるリアムのもとをある人物が訪れる。
その男はクアン・ミン(ジャッキー・チェン)という中国系移民の老人で、中華料理レストランの経営者だ。
今回のテロにまきこまれ娘を失い、自らも負傷した被害者だった。
クアンは奇妙なことをリアムに要求する。
「犯人を逮捕してください」ではなく、「犯人を教えてください」と。
リアムがUDIのメンバーだった過去を知って、彼ならば犯人を知っていると踏んだのだ。
使用された爆弾の部品はUDIの武器庫にあったものなので、リアムの知っている人間による犯行ではあるのだが、その時点ではリアムにも見当がつかない状態。
しつこく要求してくるクアンをリアムは追い返す。
すると、クアンは「気が変わりますよ」と思わせぶりなことを言って去っていくのだが、実際には官邸のトイレに侵入し、ありあわせの酒瓶とマッチでなにやら細工をし始める。
クアンが去って数分後、突如官邸のトイレで爆発が起こった。
爆発は小規模なもので幸い死傷者は出なかったが、あわてるリアムに、クアンが電話をかけてきてこう言う。
「犯人の名前を教えろ」
爆破はクアンの仕業だったのだ。
警告と脅迫である。
いくら娘を失った被害者とはいえ、この行動は異常だ。
リアムは部下の兵士たちにすぐにクアンを捕らえるように命じた。
しかし、屈強な4人の兵士たちは丸腰のクアンに返り討ちにされ、取り逃してしまう。
ただのレストラン経営者、ただの老人に。
クアンはかつてベトナムからシンガポールに逃げる途中で海賊に襲われ2人の娘を失い、妻は3女の出産時に死亡、そして最後の家族であった3女も今度のテロで失った。もはや失うものはなにもない老人なのだ。
リアムの部下はその後もクアンを捕まえられない。
それどころか、クアンはつねにリアムにつきまとい、脅迫を繰り返す。
政治生命を脅かす事件の対応と生命そのものを脅かす謎の老いぼれクアン、2つの厄介ごとに挟まれてリアムは追い詰められていく。
はたして、爆破技術や高度な戦闘術を駆使するクアンという復讐者は何者なのであろうか?
――いちおうネタバレ注意!――
ナーメテーター度☆☆☆☆☆
「ナーメテーター」は映画評論家の宇多丸さんのラジオで考案された用語のようです。
要するになんにもできないだろうとなめていた相手が、じつはターミネーター並みのとんでもない殺人マシーンだった、という流れの物語のことです。
古くは「ランボー」から「ジョン・ウィック」まで、相手をナメて、手痛いお仕置きを食らう悪党を観るのは痛快ですから、ファンも多いでしょう。
わたしも大好きです!!!
本作の開幕、ジャッキーは実年齢よりもさらによぼよぼに見えるように演出されています。
中華料理レストランを経営する無力な老人にしか見えません。
テロのあともしばらく家族をすべて失った悲しみに浸っているように見えます。
けれど、違和感はあります。
そもそも最初からクアンは「犯人を逮捕してくれ」とも「犯人を殺してくれ」とも言わないのです。
だれに対しても「犯人を教えろ」の一点張り。
自分で殺る気まんまんですw。
こういうやつをナメちゃだめなんですね~。
よぼよぼの老人だろうが片腕だろうが失明していようが、ゼッタイに油断しちゃダメです!
ジャンルは違いますけどホラー映画の「ドント・ブリーズ」もいいナーメテーター映画です。
もしあなたが弱者を虐げる立場なら、一見無害そうな人間がわずかにだす危険信号を見逃さないようにしましょう!
ちょっと年齢おかしない?度☆☆☆★★
クアンはベトナム戦争でアメリカ軍の特殊部隊にいた爆破物のスペシャリスト、という設定です。
ベトナム戦争の終結は1975年ですので、この映画の公開年度2017年を基準に考えますと、42年前ですね。
劇中で「クアンはだいたい60歳くらい」みたいな発言があり、公開当時のジャッキーも63歳なのでそこはおかしくないんですけど、63から42を引くと21になっちゃいます。
この計算は終戦時をもとにした数字なので、兵士として経験を積み、特殊部隊員として名をはせるとなるとさらに10年、最低でも5年くらいの軍歴は必要でしょう。
(5年でスペシャリストになれるかどうかはともかく)
低く見積もって軍歴5年だとしても入隊年齢は16歳。
アメリカ軍の新兵としてはさすがに若すぎ……アメリカは子どもを戦わせない正義の国じゃないんですか!?
とはいえ、無法非道嘘だらけのベトナム戦争ですしね……。
あの民主国家が少年を兵士にすることもあったのかもしれないですねー。
いや、苦しいなぁ……。
原作小説は1992年に出版されたようです。
その場合、ベトナム戦争終結は物語の17年前になり、もし60歳という設定が同じなら、クアンは43歳で終戦を迎えたことになります。
たぶん20年くらい軍歴を積んだバリバリの特殊部隊員です。
これは強いに決まってる!
納得の設定です。
ベトナム戦争で活躍した兵士、という設定は変えたほうがよかったんじゃないかなぁ、と思いました。
奇妙な緊張感に満たされている度☆☆☆☆☆
わりと説明をすっとばして話が進むので、疑心暗鬼になりました。
ただでさえ「テロ実行犯の捜索」「テロの首謀者のあぶりだし」「クアンの謎めいた行動」「リアムの政治的立場」など、謎になっている要素が多いし、そのうえけっこう人間関係が複雑です。
とはいえ、主軸はナーメテーターなので、そこを楽しめればべつに気になりません。
むしろ集中できました。
ナーメテーター愛好家なら、おすすめです!