『ものがたりいちば』

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「バンドスラム」の感想


金髪美人チアリーダーが冴えない僕に惚れるわけがない!?

 

 

 

はい、ラノベっぽいキャッチ考えてみました。
2009年アメリカ映画。
監督:トッド・グラフ 主演:アリソン・ミシェルカ
ジャンルは高校生の青春バンドもの。


うっかり青春ラブコメと書きそうになりましたが、ラブもコメディもそんなに濃くないのでやめました。


ネタバレ憲法違反指数は低めです。いちおう謎とサプライズが合わせて3個ありますが、知っていても楽しみが減ることはないと思われます。


というわけで、今回はネタバレに配慮しませんので、憲法順守の精神をお持ちの方はご注意ください!


余談ですが、Wikipediaに単独ページがないんですよね(感想を書いた2020/9/30現在)。


そういう作品は調査の手抜きができなくて困るんですけど、なんかバンドものとか音楽ものに多い気がします。ウィキペディアンの人たちの興味の方向性がわかる気がしますね。


主人公の母親役として90年代のヒットドラマ「フレンズ」に出演していたリサ・クドローが出ています。
また驚きのビッグスターが最後にカメオ出演しています。

 

 

「こんなひとにおすすめ」
デヴィッド・ボウイの熱烈なファン
今は亡きボウイが最後に出演した映画のようです。と言っても、ラストでほんのちょびっと映るだけですが、一目でも見たいという熱烈なファンなら一見の価値はあるでしょう。


アメリカの高校生の青春ものが好きなひと
おかゆ作品です。スクールカーストっぽい描写もありますが、えぐさはぜんぜんありません。
胃に優しい、安全な作品ですからご安心ください。

 

 

「こんなひとはやめといたら?」
・刺激に飢えているひと。
おかゆ作品です。激辛マニアは帰って、どうぞ。壮絶なイジメとか銃撃シーンとかありません。


・バンドものが好きじゃないひと、もしくは好きすぎるひと。
おかゆ作品です。バンドの描写はかなり薄味で、楽曲もそれほどこだわりを感じませんでした。

 

・かんたんなあらすじ
主人公のウィルは高校生で、冴えない音楽オタクです。もちろんいじめられています。


デヴィッド・ボウイを敬愛していて、音楽にはかなり詳しいのですが、音楽の趣味でひとの人格を判断する、という地味に歪んだ趣味をお持ちです。

イジメられた影響で偏屈になったのでしょうか?友だちはいません。


そんな暗黒の高校生活を送っていたウィルに転機が訪れます。
なんと母親の転職の都合で、ニュージャージーに引っ越し、つまり転校することになったのです!やったね!


イジメられ生活はリセット。新生活の始まりです。
ウィルは、そこで二つの重要な出会いを経験します。


一人目は学食で出会った同級生の女の子「Sa5m」。誤字ではありません。5を発音しない「サム」です。


クールな名前を自分につけたいお年頃なんでしょう。ありますよね、そういう時期。


彼女はいつも一人でいます。

いじめられているというわけではないようなので、一人でいることを「選んで」いるタイプです。

思春期の女子には勇気のいる生き方。黒髪のクールな少女です。


ウィルとサムは総合学習という同じ授業を取っていました。

 

(補足:アメリカの高校は日本と違い、すべての授業をひとつの教室、ひとつのクラスで受けるシステムではありません。授業は選択制で、一つの授業ごとに教室を移動するので、ロッカーも廊下にあります。同級生の概念もたぶんちがうでしょう)


その授業は「友だちを作ろう!」というやべえ授業でした。

アメリカの総合学習の概念どうなってるんだよ……。


簡単に言うとクラスの中からペアを作って、その友だちがどういう人間なのか紹介しよう!という、罰ゲームみたいな内容です。

仕事でもなきゃやりたくねえってばよ……。


ウィルもサムも友だちがいないので、余りものになったんでしょう。ペアを組むことになります。


二人目の重要な出会いは上級生のシャーロットです。


シャーロットは、金髪の美人チアリーダー

スクールカースト最上位の生物です。

もちろん奔放です。

奔放じゃないチアリーダーなど、アメリカには存在しないのです。


正直、なぜウィルみたいな冴えないやつを相手にするのかわかりませんが、彼女はウィルを保育施設のボランティアに誘います。


美人チアリーダーでボランティアまでやっている、もはや新種の生物です。地球外生命体でしょう。


さらにシャーロットはウィルが音楽に詳しいことを知ると、自分のバンドにアドバイスしてほしいと練習場の見学に誘います。


美人チアリーダーでボランティアまでやっていて、おまけにバンドのボーカルです。これは完全にファンタジー生物です。実在はしないでしょう。


シャーロットのバンドを見学したウィルは的確なアドバイスをして、シャーロットの信頼を勝ち得ました。

 

シャーロットはウィルをバンドのマネージャーにすることを決めます。即断即決、これは奔放な美人チアリーダーの特権です!


戸惑いながらもウィルは前向きに考え始めます。

前の高校ではイジメられていたのに、転校したとたんに次々と友だちができたし、やたらと美人にかまってもらえます。

そりゃやる気になりますわな~。


なんでもシャーロットたちは、目前に控えたあるイベントに出演するつもりらしいのです。
それは近隣の高校生バンドを集めたロックイベント「バンドスラム」です。


優勝バンドはデビューさせてもらえるという、地域を巻き込んだ一大イベントのようです。


さあ、ウィルはシャーロットたちを勝たせることができるのか?
友情は?恋は?
どうなるのでしょうか!?

 

 

メインヒロインの役割薄味度☆☆☆☆★
ちなみにメインヒロインはサムです。シャーロットではありません。勘違いしてはなりません。


上記のあらすじではシャーロットのほうが分量が多いですが、実際の映画でもシャーロット成分が多いです。


さらに言えばサムはヒロインどころか、主演です。ウィルは主演じゃありません。


サムはとくに劇的なきっかけもないままウィルと仲良くなり、恋仲に落ちます。

マジでちょろいです。読書好きで、とっつきにくい感じですがふつうにいい子です。サムを困らせるような真似はしません。


死霊のはらわた2」がいちばん好きな映画、という設定だけが尖っていますが、正直、とってつけたような設定です。サムにあまり影響を与えているように見えません。


シャーロットに比べてキャラ薄すぎ……。


抱えている問題といえば、子どもの頃に歌のオーディションで落ちて、歌うことをやめてしまった、くらいです。

頼まれれば歌ってくれるので、べつに心の傷とかなさそうですし、やっぱり薄味……。


でも歌はめちゃくちゃうまいです。演じているアリソン・ミシェルカは歌手だそうで、納得です。


その納得が疑惑を生み出してしまいます。
あれ、この配役キャスティングありきじゃね?

 

 

バンドメンバーの影薄い度☆☆☆☆☆
シャーロットに「バンドスラム」で勝てるぐらいバンドをよくしてほしいとウィルは依頼されます。


「バンドスラム」はニュージャージーではスーパーボウルよりも重要といわれるイベントらしいです。
スーパーボウルは、アメリカで最大の人気を誇るアメリカンフットボールの頂上決定戦で、国家的イベントです)


当初、シャーロットのバンドは彼女を合わせて三人です。ボーカル、ギター、ベースという編成で、ドラムもいません。


そこで一念発起したウィルは、追加メンバーを校内で探します。
かなりてきとうに追加していきます。まったく難航しません。


ドラム、ピアノ、チェロ、トランペット、ホルン、サックス。

ぽんぽんぽんとテンポよく追加できます。

しかも、てきとうに誘ったわりに腕前は問題ありません。アメリカの高校生天才だらけなの!?


これでバンドは9人の大所帯になりましたが、彼らの掘り下げはないです。名前すら出てこない連中が大半です。


なんか、バンドものの醍醐味が薄い……。


個々の技術の差や音楽性の違いによる衝突、そういうのが複数人で一つのものを作るときに発生する重要イベントだと思うんですが、べつにないです。

 

 

ちぐはぐ度☆☆☆☆☆
メインヒロインで、主演のサムが影が薄いのです。
いっぽう、シャーロットの掘り下げはなかなかのものです。


美人チアリーダーのシャーロットがなぜ冴えないウィルと組んでバンドを始めたのか、という理由がちゃんとあるのです。


じつは父親が一年前に病気になってしまい、父を愛しているシャーロットは変わろうと決めたのでした。


美人チアリーダー時代の彼女は、傲慢な人間でした。

スクールカースト上位の連中とばかり付き合い、冴えない連中と付き合うなんてことは考えもしませんでした。
そういう態度を父は嫌がっていたのです。


だからこそ、自分を変えるためにボランティアを始めて、ウィルみたいな冴えない童貞と仲良くすることにしたのです。傲慢さを捨てれば、神様が父を助けてくれるかもしれない……という「お祈り」行動だったのです。


わたしはキリスト教徒ではないので理屈はぜんぜんわかりませんが、神頼みしたくなる心境とはそういうものかもしれません。

 

十代で少しでも自分を変えようとした姿勢はすごいと思います。

 

世界は変わらないのですから、状況をよくするためには自分を変えるしかないと知っていたのです。しゅごい……。


しかし、改心もむなしくシャーロットの父は物語終盤で亡くなってしまいます。


すると、冴えない連中とバンドを続ける意味もなくなってしまって、シャーロットは身勝手に抜けてしまいます。しょうがないね。


裏切られたと感じたウィルやバンドメンバーは傷つきます。
こういう物語を動かす変化力がサムにはないんですよね~。


本来なら最後のライブシーンとか感動するはずなんですけど、サムのぽっと出感がすごくてべつに……ってなってしまいます。

バンドメンバー同士の絆もたいしてありませんし……。


メインヒロインをシャーロットにして、彼女との関係性の浮き沈みをメインストーリーにすればちぐはぐ感は出なかったと思うんですけど、そこは、アレですかね、キャスティングの闇なんですかね。

 

終盤のとってつけたような展開はともかく、美人チアリーダーお姉さんのシャーロットに翻弄される序盤の展開は青春ラブコメっぽくていいと思います!