『ものがたりいちば』

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映画「風をつかまえた少年」の感想


飢餓に苦しむ村を救った小さな英雄の武器は、知識だった。

 

2019年イギリス映画。感動の実話ものとなっております。
監督は俳優のキウェテル・イジョフォー。これが長編初監督。
主演はマックスウェル・シンバ。
ネタバレは回避するの無理です。諦めましょう。実話ものですから。

 

 

・序盤のかんたんなあらすじ
舞台は2001年アフリカ南部にあるマラウイという極貧国。
旧イギリス領です。

そうです。

旧植民地をてきとうな状態で放り出すことで有名なあのイギリスです。


主人公はウィリアムという名の14歳くらいの少年です。

 

ウィリアムの住む村はおよそ文明と無縁のド田舎。
暮らし向きは貧しく、家には電気も水道も通ってません。
井戸に滑車もついてないので、単純に腕力でロープを引き上げなければなりません。


インフラ力は戦前の日本以下。
いんたーねっと?なにそれ、おいしいの?
そんな21世紀があります。


ウィリアムの家は家計がやばいので夜のランプに使う灯油代もケチります。
せっかく学校(中学でしょうか?)に通い始めたウィリアムですが、夜は勉強できません。


姉のアニーが高校を出たときにはランプで夜勉強していたのに……と愚痴ってるのでどうやら数年前より貧しくなっているようです。


案の定、学費を払えず、すぐに退学になってしまいます。
ウィリアム自身は向学意欲が高いのですが、家にゼニがないんじゃどうにもなりません。


しかし、彼は機転をきかせます。


たとえ授業には出られなくても、学校には図書館があります。
ウィリアムは学位にはこだわりません。
とにかく、ある知識を得たいのです。


教師の自転車についているライトが車輪を回すと点灯するのを目撃してから、ウィリアムは発電の仕組みを理解したいと願っていました。


そんなわけで、姉のアニーと恋仲になっている教師を「教え子に手を出すスケベ教師が!」と脅して図書館の利用資格を得ました。


賢いですね。
ウィリアムはその後も数々のピンチを機転で乗り越えていきます。


しかし、村にどうしようもない危機が迫りつつありました。
飢餓です。
雨季の洪水のせいで穀物の収穫量が少なく、その直後に干ばつがやってきたのです。


ウィリアムの家は農家なので多少蓄えがありましたが、父親がノコノコ政治デモへ遊びに行っている隙に野盗の群れに倉庫を襲撃されて略奪されてしまいます。


政府から買ったわずかな食糧だけで、一家は次の収穫までの数か月を乗り切らなければならないのです。


残された食糧はたった15キロの穀物
一家は父、母、ウィリアム、姉のアニー、そして生まれたばかりの赤ちゃんの5人……。


相談した結果、食事は1日に1食。
ほうれん草のお浸しみたいなのと、小さなパン1個……いや無理だって!
1か月も持たないって!


美人姉のアニーは飢えた野盗にレイプされた挙句殺されるくらいなら、スケベ教師と駆け落ちする、と動揺しまくってます。


母親は嘆くばかりです。


父親は必死になって畑を耕しますが、水がないので無意味です。


ぱっさぱさに乾ききっていて、土ではなくほとんど砂です。
何度鍬を立ててももくもくと煙があがるだけです。
作付けなんてできるはずもありません。


父親はマジメな正直者ですが頑迷で無知なのです。


頼りになるはずの村の族長は政権批判をしたせいで裏路地に連れていかれてボコボコにされて死んでしまいます。


あ、一応民主共和制の国家です。
よくある民主的な独裁国家(!)です。


体力のある若者たちは村を見限って逃げ出していきます。
逃げた先に食糧があるかどうかはわかりませんが、なにもない村に残って餓死するよりはマシだと思っているようです。


なんかもう絶望しかない村の未来ですが、ある日ウィリアムは図書館で一冊の本と出会います。


「エネルギーの利用」という本でした。


その本を読んでウィリアムは光明を見出します。
風車を作って風力発電でポンプを動かし、井戸の水を汲んで畑に流す。
そうすれば乾季にも作物を作れる、飢饉を終わらせられる。


一刻もはやく、風車を作らなければ!


絶望でやけくそになった村で唯一の解決策をもつウィリアムはさっそく、材料集めに乗り出すのでした。

 

 

――以下ネタバレ――

 

 


世界は助けてくれない度☆☆☆☆★
むしろ邪魔します。

えぇぇ……。


食糧危機が起こった直接の原因は洪水と干ばつですが、食糧が決定的に足りなくなった原因は豊作を予想した世界通貨基金などの国際機関が「備蓄食料を外国に売って外貨を稼げ!」とかいらん忠告をしたせいです。


2001年同時多発テロの直後だったので、先進国はビンラディンアフガニスタンに夢中でした。


というかそもそもいついかなるときもアフリカのよくわからん国なんて興味ありません(断言)。
油がとれないところなんかどうでもいいんだよぉ、おらぁん!ってかんじです。


マラウイは国民の80%が農民の農業国らしいです。
ろくな天然資源もなく、工業力もない。
しかも国民の10%以上がHIV感染者――ウルトラハードモードです。


現代でも相変わらず雨頼りの運ゲー農業をやっているので、しばしば食糧危機が起こっているようです。


いちおう、最近は国連などの世界が援助を行い、ちょっとは助けているフリはしているようです。

 

 

教育の重要度☆☆☆☆☆
劇中で父親が「政府は助けてくれない。自分たちでやらねば」と口にするのですが、まったくそのとおりになります。


父親は母親と結婚して農業を始めるときに「苦しくても雨乞いの祈りはしない」と誓ったそうです。


つまり、父親は迷信に惑わされず、現状を把握して先を読む聡明さを備えているのです。
けして頭のわるい人間ではありません。


しかしながらそんな父親も飢饉に対して解決策は見出せません。
無意味に砂をほじくり返すだけです。


彼は学校に通っておらず、教育を受けていないので、知識がないのです。
息子のウィリアムに「農業を教えてやる」と言いますが、おそらく光合成の知識すらありません。


ゆえに「風車で発電してポンプを動かして井戸水を畑に引く」という明確な解決策を提示したウィリアムに「俺に立てついた!」と怒りだして提案をつっぱねてしまいます。


父親の頭がわるいからではなく、ウィリアムの話を理解するための知識が不足しているからです。


アフリカの一部地域ではHIV感染が深刻で、「処女をレイプすればHIVが治る」という迷信が流行ったせいで10歳にも満たない幼女がレイプされる事件が多発したやべえ国もあったそうです。


管理人が子どものときにも、他人に風邪をうつせば治るという迷信がかすかに生き残っていました。


コロナ禍の現代、いったいいくつの迷信が生まれているんでしょうかね~。
やっぱ教育って大事なんすね。

 

 

飢えたくない……度☆☆★★★
本作はふつうに感動できる良質な映画です。
ただ、飢え方の描写はぬるいです。
つーか上品です。


登場人物は「3日なにも食べてない」とか「今日は太鼓の革しか食べてない」とか言いますし、村人もばたばた死んでいるようであっという間にお墓が増えていきます。


だけど、ウィリアムの家族や友人たちはあまり体型が変化しませんし、顔色もよさそうです。


餓死した死体の描写も、唯一飼い犬だけです。
わんこかわいそう……。


ちなみにこのわんこ、丁重に埋葬されてしまいます。
俺なら食うね!と思いました。
ほんとは食ったでしょ?


というわけで、飢餓描写が大好きなサイコパスの方は残念でしたね。
本作は上品な作品ですので!

 

奇跡の実話ものは好きなんですけど、たまにはどうにもならなかったやつも観てみたいです!

と思ったけどそれは実話じゃなくてもいいか……。