『ものがたりいちば』

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Netflix映画『オキシジェン』ネタバレあり、あらすじと感想。おもしろい!

2021年アメリカ・フランス映画
監督:アレクサンドル・アジャ
主演:メラニー・ロラン

「閉所恐怖症のひとは観るのを避けたほうがいいかもしれません」という注意アナウンスが足りない名作の感想です。

目次です。好きなところから読めます。

 

 

【序盤のあらすじ】

医療用ポッドのなかで女性が目覚めます。
女性は記憶を失っており、なぜ自分がポッドのなかにいるのかわかりません。
ポッドのナビゲーションシステム・ミロに尋ねると、オミクロン267という認識名を教えられますが、詳しい名前がわかりません。


状況がさっぱりわからないなか、オミクロン267に危機が迫ります。
ポッドの酸素残量が減り続けていて、しかもロックを解除できないため外に出られないのです。
ロックを解除するためには認証コードが必要ですが、記憶がないのでわかりません。


このままでは狭い箱のなかで窒息死してしまいます。
ポッドを物理的に破壊しようとしますが、道具がないので無理そうです。
ミロにいくつも質問しますが、有益な情報は帰ってきません。


「困ったら警察!」ということで電話して「閉じこめられた」と助けを求めますが、居場所もわからない、自分の名前もわからない、という状況では警察も対応に困ります。


このままでは情報がなさすぎるので、オミクロン267はミロに自分のDNAに該当する人物を探らせて、自分がエリザベット・ハンセン(リズ)という名前であり、生物学者であることを知りました。


この情報をもとに、警察がようやく動き出してくれます。
さらにリズはマスメディアやSNSで検索して、自分にはレオ・ファーガソンという夫がいることを知りました。


レオの電話番号に通話すると、なぜか女性が応答します。
その女性はレオを知っているようですが、リズの話をまったく聞かずに「2度と電話しないで」と冷たく電話を切ってしまいました。
こうしている間にも酸素残量は減り続けていくのです。

 

【嘘と疑心暗鬼】

焦ったリズは警察の捜査に希望を託すのですが、深夜のため手続きが遅れ、助けに来る様子がありません。
閉じこめられた恐怖のせいか時間の感覚が狂い、マウスの幻覚まで見るようになったリズは注射針で自分の手を刺して正気を取り戻します。


そして「警察も自分を閉じこめているやつとグルではないか?」と疑いを抱きました。
通話している警部がときどき誰かと会話しているのです。
まるで指示を受けているかのようです。
警部が「君は未婚で、レオ・ファーガソンという人物は存在しない」と言い始めました。


そんなはずはありません。
すこしずつ戻っていくリズの記憶にはレオの顔も、匂いも、すべてリアルな思い出として残っているのですから。


さらに警部は「リズの母の名前が記憶と違う」とか「バスケットボールの選手だった」とか、ぜんぜん記憶にないことを言いだしました。
どう見ても遅延行為に走り始めた警察に見切りをつけたリズは電話を着信拒否にして、自力で脱出することにします。


とはいえ、状況はなにも変わっていません。
あいかわらずロックを解除するための認証コードはわかりませんし、物理的にこじ開ける方法もありません。
万策尽きて(もともとない)困り果てているリズに謎の人物から電話がかかってきました。

 

【謎の女性】

その人物はさっきレオの電話に出て、すぐに切った女性でした。
恐怖と疑心暗鬼で錯乱状態になっているリズは女性を信じられず、話を聞こうとしませんが「話をしてくれたら認証コードを教える」と言われたので、聞く姿勢になります。


リズとしては今すぐにでも教えてもらいたいのですが、女性はもったいぶります(笑)
ムカついたリズが着信拒否にしようとすると、ようやく認証コードを教えてくれました。


さっそくロックを解除しようとするのですが、女性が必死に「開けたら死んでしまう」と言ってきたので、もうすこし話を聞いてみることにします。
女性に言われるがままポッドの設定を変更すると、なんと体が浮き上がりました。
無重力状態――ここは宇宙空間なのです。


「ポッドを開ければ死んでしまう」という女性の発言が真実だったことで、リズは女性の話を聞く気になりました。
女性は驚愕の事実を語ります。


病気かなにかの汚染の影響で地球人類があと2世代で絶滅してしまうので、人類を存続させるために遠くはなれた惑星に植民団を送ることになり、リズはその一員として志願し、ハイパースリープで12年間眠り続けていたのです。


夫のレオは大流行した感染症ですでに亡くなっているそうです。
その感染症が人類を絶滅に追いこむのかどうかは語られません。


ここは植民団を運ぶ宇宙船であり、本来なら目的の惑星につくまで極低温ポッドのなかでハイパースリープ状態になっているはずでしたが、なんらかのトラブルのせいで目覚めてしまったのです。


さっきの警部が嘘をついていたのは「2世代で人類が滅ぶ」という秘密を守るためでした。
政府の命令で、リズが他の人間に連絡して余計なことを言わないように、死ぬまで時間稼ぎしようとしていたのです。


拉致監禁の犯罪話かと思ったら人類の存亡をかけた壮大なプロジェクトの1貫でしたが、リズが置かれた危機的状況はなにも変わりありません。
むしろ、今までとは比較にならないほど悪い状況だと判明しました。


まずなにがあっても絶対に助けは来ません。
外に出ても死にます。
さっきミロに「生存確率0%」とお墨付きを頂いた理由がわかりました(笑)
しかし、まだ打つ手はあるのです。

 

【生きるために】

女性は「酸素が2%以下になる前にハイパースリープ状態に戻れば、命は助かる」と言います。
そこでミロで調べたところ、なんらかの部品が壊れたため、ハイパースリープを維持するためのリソースが足りなくなったようでした。


いらない機能を停止することでリソースを確保しようとするのですが、そもそも生命維持のためのポッドですから、いらない機能がありません。
どれを止めても死亡、もしくはそれに近いダメージを負うことになります。
生き残れると思ったらやっぱりダメでした……。


さらに頼みの綱の女性が政府の人間に捕まってしまい、通話が終わってしまいます。
しかし女性は通話の最後に「極低温ポッドはリズ本人が作ったから、必ず対処法がわかるはず。あとレオを探して」とメッセージを残していきました。
死んだはずのレオを探せとは、この忙しいときになんのクイズでしょうか?(笑)


いったん心を落ち着かせるためにリズは遮光フィルターを解除して、ポッドの外を見ます。
いきなり無残な死体があってびっくりしますが、おかげでポッドが壊れた原因がわかりました。


小惑星が宇宙船に衝突したのです。
その影響で400以上のポッドが損傷し、壊れたポッドで生き残っているのはリズ1人でした。


生存をあきらめかけたリズは通信圏内から出る前に地球の母に連絡します。
すると母は「なんで先週の週末にこなかったの?」とのんきなことを言いました。
まったく最後の別れらしい会話にならないまま通信圏内を出てしまいます。


母が認知症を患っているのでなければ、おかしいことです。
現地点は地球から6万8000キロの距離だとミロが明言していましたが、もしリズが眠りについた12年前に地球を出発したのだとすればいくらなんでも近すぎます。
なにしろ地球と月の距離が約38万キロですので、その3分の1も進んでいません。


じつは母が認知症なのでも、宇宙船が考えられないほど鈍足なのでもありませんでした。

 

【もう1つの隠された事実】

違和感を覚えながらリズは「レオを探して」という、女性の最後のメッセージをヒントにして、船内のポッドからレオを探し出しました。
「レオが死んだなんて、嘘つき……」とリズは安心しながら女性を責めます。


ところが、おかしなことにレオの顔にあるはずの傷がないのです。
嫌な予感がしたリズはエリザベット・ハンセン博士の講演動画を見てみました。
すると、そこには老婆になったリズが映っていたのです。
講演内容は「記憶を完全にコピーすることに成功した」というものでした。


すべてを察したので一応ミロに確認してみると、やはりリズは「エリザベット・ハンセン博士の記憶を移植されたクローン」だったのです。
もちろんポッドにいるレオもそうですし、他のポッドにいるのもクローンでしょう。


女性――オリジナルのリズはなにも嘘をついていなかったのです。


オリジナルのレオ・ファーガソンは何十年も前に感染症で死んでいますし、極低温ポッドを開発したのもリズ(オリジナル)ですし、ここにいるリズはクローンとして誕生してから12年間(たぶん記憶を移植する作業のために)ハイパースリープで眠っていたのです。


そして宇宙船はついさっき地球を出発したばかりで、すぐに小惑星と衝突してしまったのです。
たぶん大気圏を脱出して数分後とか、へたすりゃ数秒後とかでしょう。
未来のNASAはなにをやっているんでしょうか?(笑)


ともかくさっき目覚めた瞬間に始まった人生はほんの数十分で終わってしまうのです。
リズは眠っているレオに別れのメッセージを送りますが、まだ会ったこともないので複雑な気分になります。


酸素残量が3%を切ったので、ミロがリズに余計な苦しみを与えないために薬剤を注入して安楽死させようとしました。
あわててリズはすべてのチューブを引き抜いてこれを回避します。


そして、「ひょっとして……」と安楽死システムを停止させてみると、なんとハイパースリープ用のリソースが確保できたのです!
しかし、ハイパースリープに入るためにはさっき苦労して引っこ抜いたチューブを全部刺しなおさなければいけません。


残り酸素残量が2%を切るなか、なんとか目覚めたときの状態を再現しましたが、ミロに「2%の酸素がなければ蘇生は絶対に失敗します」と無慈悲な現実を突きつけられてしまいました。


ハイパースリープに入れば眠っているあいだ酸素を消費しないから死にませんが、目覚めようとしたときに死ぬのです。
死ぬタイミングが変わっただけでした。


とはいえ今までも絶望的な状況に抜け道はあったのです。
ただリズ・オリジナルやミロがもったいつけていちばん大事なことを教えやがらなかったせいで絶望的に見えていただけですから。


そんなわけで、いい加減、連中のやり口に慣れてきたリズが「あのさ、死んじゃった人たちのポッドから蘇生用の酸素を分けてもらえちゃったりしない?」と尋ねると、ミロは「あ~いいっすけど、ちょっと時間かかるんでハイパースリープして待っててもらっていいすか?」と軽い感じで答えます。


なんなんだこの指示待ちクソポンコツAIは!?


マジで切れていいはずのリズですが、助かった喜びが大きいためミロを許してやるどころか「叩いてごめんね?」と謝ります。
するとミロは「謝罪を受け入れます(笑)」と冗談で返してきました。


なんなんだこのクソつまらんジョークしか言えないポンコツAIは!?


ともかく、リズは生への、いや人生への希望を持ちながら眠りにつくのでした。
それから、長い長い時間が経過して、新たな植民惑星に無事到着したリズはレオと再会の初対面を果たし、人生を始めるのであります。
おしまい。

 

【まとめ】

未来技術の進歩歪んでる度☆☆☆☆☆
「極低温ハイパースリープによる人体の完全保存」「記憶の完全移植」「クローンの成長促進」「ワープに近いほどの超高速宇宙船」と目覚ましい進歩を見せる分野もあれば、「月より近くを通る小惑星を探知できない」お粗末な天文観測技術もありました。


そしてAI分野!
Siriとたいして変わらないので、ぜんぜん進歩しなかったようです(笑)


ハイパースリープも記憶の完全移植技術もオリジナル・リズが開発したみたいですけど、天才すぎへん?
だって、専門は生物学者ですよ。
あまりにも天才すぎるので、宇宙船に乗せられた10000人のクローンのうち1000人がリズ型だったとか(笑)

 

 

宇宙船の防御力紙度☆☆☆☆☆
軽量化とか姿勢制御とか、いろいろ宇宙工学的な事情はあるんでしょうけど、いくらなんでもポッドがほぼむき出しやんけw

 

 

急ぎの状況でクイズはやめてあげて度☆☆☆☆☆
オリジナル・リズは対処法がわかっていたはずなのに、なぜクイズ形式にしてヒントを与えるだけにしたのでしょうか。
「政府の手の者に逮捕されそうで時間がなかったから」という反論は弱いです。


そもそも宇宙船だの、人類存亡だの、と長々話す前に「とりあえず他のポッドから酸素を分けてもらって、はよ寝ろ」と一言で対処法を教える時間はあったわけですから。
しかし「オリジナル・リズは他のポッドが損傷していると知らなかったから、死者から酸素を分けてもらうことを思いつかなかった」という反論も可能です。

なにしろこの未来のNASAポンコツなので、船内の状況をモニタリングできていないはずですから。


ここでちょっと考えてみて、「オリジナル・リズは極低温ハイパースリープを発明した」けれども「直接ポッドを設計したわけじゃないから細かい対処法を知らなった」可能性に思い当たりました。


あ、でもいろいろ設定を指示していたし、知っていそうです……。


生き残るためのヒントとして出された「レオを探して」という言葉から、クローン・リズは自分がクローンであることを知ったわけです。
オリジナル・リズは自分が失った「レオとの人生」をこれから過ごすことになるクローン・リズに嫉妬し、ちょっとした試練を与えたのでしょう。


「この大ヒントから危機を解決できないようでは、とても天才の自分の正当なクローンとは言えない。レオとともに生きる資格なし。あと999人もいるし(笑)」
こんな感じですかね(絶対ちがう)


まあたぶん「他にもポッドがあるから、それでなんとかして」というのを「レオを探して」に省略したんでしょう。
自分が天才すぎるから、そのクローンであるリズにもそんな雑な指示で通じると思ったんでしょう。
生まれて数十分なのに無茶いうなよw

 

最初は『リミット』のSF版かと思わせておいて、どんどん展開が変化するのに解決するべき危機そのものは最初から最後まで変わらないというひねりがよかったです。


最後に:ポッドがむき出しなのが悪い!宇宙船の設計者でてこい!


10000人のクローンにはリズやレオのような未来を作れる天才ばかりを選別しているはずなので、たぶんそいつのクローンも乗ってます(笑)
誰も口をだせないほどの天才じゃなければ、あんなむき出し状態にGOサインが出るわけがないですから。


人類を救うための選民とはいえ、間違った人物を選んでしまうことはあるようです。
リズたち以外の9998人が間違って選ばれた偽天才ではないことを、人類の未来のために祈るばかりです……。
以上です。


この映画ほどのひねりはないですが、監禁ものの名作なので『リミット』はおすすめです。ストレートにおもしろいです。