『ものがたりいちば』

映画観賞歴5000本以上なりに映画ドラマアニメの感想を書いてます。ゲーム関連はhttps://zwigani.comに移転中です。

「ラスト・クリスマス」の感想


「ハート」フル・ラブコメディ

 

今回おすすめする映画は「ラスト・クリスマス」です。
2019年イギリス。
主演はエミリア・クラーク。ゲームオブスローンズの女王デナーリス役を演じて世界的スターになった超絶美人女優。はい、管理人も大ファンです。
エミリア・クラークに興味のないラニスター野郎は回れ右して帰ってください!
ジョージ・マイケルへの愛もあまり感じられないので「ワム!」ファンのひともマジにならないでください!

 

最初にはっきり言っておきます。
本作はラブコメではありませんし、よくできた映画が好みのひとにはおすすめしません。
おまえは何を言っているんだ?」と思われるのは当然ですけど……ラブコメではありませんし、できは悪いです。わたしは嘘をつけない人間なので、これだけは譲れません!


シャレが好きなひととか、あとはイギリスの雰囲気が好きなひとにはおすすめです。
ちなみにネタバレによる魅力減はかなりのものなので、観ようと思っているひとはご注意ください。

 

 

・本作のかんたんなあらすじ
舞台は12月のロンドン。そりゃそうだ。この題名でクリスマス関係なかったらびっくりしますよね。
主人公は26歳のケイトというブロンド美人です(エミリア・クラークなんだから当たり前ですが)。
ケイトはクリスマス雑貨の店で働いていますが、勤務態度はマジメとは言えません。接客中にスマホをいじったり、勝手に外に出て行ったりします。
彼女には歌手になるという夢があり、オーディションに挑戦しているのですが連戦連敗。
というのもこのケイト、真剣じゃないのです。


仕事が終われば毎晩のように飲み歩き、バーで出会った男性の家に転がり込んで一夜の関係を結びます。デートアプリなども駆使しているようです。

ロンドンにちゃんと家があるのに、どうも帰りたくないようで、友人の家に泊めてもらったりもします。泊めてもらっている分際でナンパした男を連れこみます。友人も迷惑そう(当たり前)ですが、嫌なやつではないので強くは言えません。


一言でいえば、ビッ、じゃなくて、アバズ、じゃなくて奔放な尻ガールです。


歌の練習をしている様子はまったくありません。

つまり、アリバイオーディションです。歌手になりたいわけではないのです。

 

おそらく家族にも自堕落な生き方がバレているからでしょうか、あまり家に帰りたくないようです。家族仲も最悪です。母はいまだにケイトの枕元で子守唄を歌って寝かせつけようとします(ケイト26歳児)。

父はそんな母と顔を合わせたくなくて深夜になるまで帰ってきません。姉は同性愛者ですが、両親に言えずにいます。
ケイトは仕事にも恋愛にも夢にも家族にも、すべてが投げやりで、真剣じゃないのです。
なぜなら、とある過去の事情からケイトは生きることに意味を見いだせず、夢を追いかけるフリをして無理やり人生に意味付けをしているのでした。


クリスマスも近くなったころ、ケイトはトムという不思議な男性と出会います。
絵にかいたような好青年で、ホームレスの支援センターでボランティアをしています。
彼はケイトを夜のロンドンの散歩に連れ出し、裏路地や目立たない公園などの名所を教えてくれるのです。ふだんケイトに近づいてくる男性は酒を飲ませてセックスに持ち込みたいだけなので、ただ散歩をしただけで別れるという行動が、ケイトには新鮮でした。というか、最初は変人に映ります。

なにしろトムはスマホすら持っていないのですから。


それから何度も会ううちにケイトはじょじょにトムに惹かれていきます。
ま、ラブコメだからね。そーなるよねー。ありがちありがち。
などと管理人は鼻ホジしながら見ていたのですが、じょじょにこちらの予想を裏切られることになりました。
果たしてこの男女はどのようなクリスマスを迎えるのでしょうか?
予想が当たったらすごい!あなたはエスパーです。

 

 

二階建てのバスが追い越していく度☆☆☆☆☆
この映画をおすすめする最大のポイントは、とにかくロンドンの街並みが魅力的ってことです。
テムズ河沿いの穏やかな夜景。雑然としてはいるけれど、思わず心躍ってしまうような露店が立ち並ぶ朝市。相撲取りが通れなさそうなほど細いけど清潔な裏路地。歴史を感じさせる建物が居並ぶ商店街とそこを走り抜ける二階建てのバス。ベンチと植物しかないちんまりとした公園はそこが世界的な大都会であることを忘れさせてくれてそうです。
もちろん見栄えのするロケーションを選んでいるのでしょう。それでも、バッキンガム宮殿やビッグベンのように有名な名所をあえて避けて、下町の魅力を紹介していることが素晴らしいと思います。
コロナが収束して気兼ねなく海外旅行に行けるようになったら、行ってみたいな、と思いました。

 

 

今が旬度、および、薄味盛りだくさん度☆☆☆☆★
ケイトと母親との確執匂わせからは、近年先進国で浮き彫りになりつつある毒親問題がテーマなのかと思いましたが、べつにそんなことはありませんでした。多少の問題はあっても普通の母子関係です。


ケイトの一家は旧ユーゴスラビアからの移民です。ブレグジット(イギリスEU離脱)に関するシーンもあったりして、いま世界に吹き荒れる外国人差別、外国人排斥問題を扱っているのかと思いましたが、べつにそんなことはありませんでした。


ケイトの姉は同性愛者なので、LGBT問題に切り込む作品なのかとも思いましたが、べつにそんなことはありませんでした。


このように、ジャンル決めつけに対するミスリーディングがとても多いのです。開幕十分くらいはラブコメにしか見えませんが、ラブコメではないです。家族の問題を扱ったヒューマンドラマかと思えばそれも薄いです。外国人差別LGBTも軽く味見するだけです。


どのテーマも深く掘り下げようと思ったらそのテーマだけで一本の映画が作れてしまうし、ちゃんとやるならそうするべきでしょう。
なんでデパ地下の試食品を食い散らかすみたいなことをしたのかと考えたのですが、「今の旬」感を出したいんだな、という結論に落ち着きました。ほめてません。
たいがいのシーンを五年後に観ても蛇足、ノイズにしか映らないと思うので、観るなら今でしょ!


ただ、上にあげた社会問題は非常に現代的ですし、いまだに答えの見えないテーマでもあります。がっつり掘り下げるとどうしても重くなってしまって軽い気持ちで見ることができないでしょう。間違ってもポップコーン片手に鑑賞できなくなります。
なーんか社会性高めの映画を見たかもなーおれもなーちゃんと考えないとダメだよなーみたいな気分にはなるので、ある意味啓蒙的なのかも……?

 

 

ここから先は物語の核心に触れるので、ネタバレアラートです!

 

 

企画を通したやつの勇猛果敢度☆☆☆☆☆☆☆
題名がネタバレ。
これはよくある話ですが、そのくだらなさがすごい。
ラスト・クリスマス」というのは、1980年代にヒットしたワム!というグループのクリスマスソングです。劇中でも流れます。
なにがくだらないかというのは、出だしの歌詞を確認してもらえばわかってもらえると思います。
Last christmas I gave you my heart.
はいこれ。
いちおう元ネタの意味合いは「去年のクリスマスにぼくは君に心を捧げた」みたいなもんです。
なにがくだらないんでしょうね~?
では、スーパーネタバレタイムです。


主人公のケイトは一年前のクリスマスシーズンに重度の心臓病を発症して病院にかつぎこまれました。劇中人物がケイトの生還を奇跡と言っているので、たぶん突発的な出来事だったのでしょう。本来なら対処法がなかったのだと思います。


ところが、偶然同じ病院に交通事故にあった人物が搬送されて、その人物は重体で助かる見込みがなかったようです。ドナーカード(臓器移植の意思を示すカード)を保持していたことから、その人物の心臓がケイトに移植されることになります。おかげでケイトは一命を取り止めたのでした。


そして、ケイトに心臓を提供した人物こそ、トム青年だったのです。
せっかく奇跡的に命を取り留めたのに、自堕落に一年を過ごしたケイトに腹を立てたのでしょうか?
トムの亡霊がケイトの前に現れ、彼女を正しい道に導こうとした、というのが本作の最大のサプライズです。


クリスマスに亡霊が出てきて善人ではない人物を改心に導くというのは、チャールズ・ディケンズの古典文学「クリスマスキャロル」と同じパターンですが、なんかちがうと思う……。いや、ぜんぜんちがうね!


「クリスマスキャロル」の主人公スクルージは、悪人とまではいきませんが、すげー嫌なやつです。彼のことを好きなひとはこの世に一人もいませんし、誰にも愛されていません。もちろん友だちなんていないのでクリスマスも一人で過ごすのです。孤独のまま生き、孤独のまま死んでいくのがおあつらえ向きの哀れなクソ老人です。改心させなきゃ神様の沽券にかかわるでしょう。


でもケイトはスクルージとは違います。

悪人ではありませんし、嫌なやつでもありません。友だちもけっこういます。ちょっとお股と頭がゆるいだけで、どこにでもいる女の子です。改心させなきゃいけないほどのカルマはないです。


もう一度歌詞に出てきてもらいます。
Last christmas I gave you my heart.
「去年のクリスマスにぼくは君に心臓をあげた」
英語を学び始めて二週間くらいの小学生が直訳しそうなほうの意味だったのです。
……マジで?
4コマ漫画みたいなオチです。


この薄さで一本映画を作ろうとすると、そりゃあいろいろの要素をむだにくっつけて水増ししないと間が持ちませんよね。
この作品は批評家や観客からの評判が悪かったようです。そりゃそうだ。
でも、管理人は製作者の蛮勇に敬意を表したいです。
こんなくだらねー思いつきを映画にしようと企画してそれを通したこと。


さらに、エミリア・クラークという大スターにオファーを出すという暴挙を企てて、それを叶えたこと。挙句の果てにマジで映画を作っちゃったこと。
これこそがクリスマスの奇跡と言うしかないでしょう!ほめてません。


映画としての出来栄えはまちがいなくひどいんですが、不思議なことにつまんないわけではないんですよね。
個人的にはロンドンの魅力を再確認できたので、楽しめました。マジ奇跡。
ほめてません。