『ものがたりいちば』

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映画『ヤクザと家族 The Family』ネタバレあり、あらすじと感想

2021年日本映画
監督:藤井道人
主演:綾野剛

今年度邦画実写映画NO.1候補の力作!
まあ今年の実写邦画はこの1本しか観てないから知らないんですけど(!)

 目次です。好きなところから読めます。

 

【序盤のあらすじ】


主人公の山本賢治(19歳)は覚せい剤が原因で父親を亡くしました。
葬儀を終えたある日、父親にシャブを売っていた売人を見つけた賢治は金とブツを強奪します。
悪友の細野、大原とその金で飲んでいたところ、ヤクザ同士の抗争に居合わせ、柴咲組の親分柴咲の命を救いました。
これが後の『親父』との出会いになります。


金とブツを強奪された売人のケツ持ちをしている侠葉会に賢治たちは拉致され、外国に売り飛ばされそうになりますが、柴咲とつながりがあったおかげで見逃されました。
身よりも行くところもない賢治は、柴咲に誘われて柴咲組に入ることにしました。


柴咲親分の人柄に惹かれたこともあるしょうが、「柴咲組が父親の死の遠因となった覚せい剤に手を出していない」ことも賢治の選択に影響しているでしょう。
賢治の悪友、細野と大原もいっしょに親分のところで面倒を見てもらうことになりました。
こうして賢治は新たな家族を手に入れたのです。


6年後2005年。
賢治はいっぱしの筋モンになり、夜の町のしきりを任されるほど柴咲組でのポジションを確立しています。
とはいえ、ここ最近柴咲組は不安定な状況下にあります。


町の再開発計画が持ち上がったことで、シノギを失いそうになった侠葉会が柴咲組のシマに進出しようとしているのです。
組同士の揉め事を起こしたい侠葉会は、血の気の荒い賢治に目をつけました。
侠葉会の川山というヤクザがわざわざ賢治の店でトラブルを起こし、まんまと引っかかった賢治は川山を殴ってしまいます。


この件を片付けるために柴咲親分と侠葉会若頭加藤が話し合いを持ちました。
「この落とし前をどうつけてくれるんだ」とシマをよこすように迫る加藤に、柴咲は「文句があるなら俺のタマ取ってみろ!」と断固拒否の姿勢を見せます。
すると、加藤は暗殺者を送りこんできて、柴咲親分の乗る車を銃撃させました。


賢治が身を挺して守ったため、柴咲には当たりませんでしたが、車を運転していた大原が頭を撃たれて死んでしまったのです。

 

 

【報復と服役】


舎弟にして長年の悪友である大原を殺された賢治は当然報復しようとしますが、子分を殺されたのに柴咲は慎重な態度です。
静岡県警の刑事大迫から「報復したら全員潰すぞ」と脅しをかけられているうえに、上部組織からも「穏便に済ませるように」と命令されたからです。


親父に報復を禁じられた賢治ですが、こればかりは聞けません。
舎弟の細野と連携して川山の居場所をつかみ、チャカで弾きに行きます。
ところが、立ちバックをお楽しみ中だった川山を撃とうとすると、横から出てきた柴咲組若頭の中村が先にドスでぶっ刺してしまいます。


若頭が下っ端の報復のために直接手を下すとは、柴咲組はちょっとアットホームすぎるようです。
組を支える若頭が懲役になってはまずいので、賢治は中村を逃がし、自分が罪をかぶるために念入りに川山をめった刺しにしてから逃げました。


賢治が向かったのは自分の店で働いているキャバ嬢由香の家です。
何度か口説いても気の強い由香に拒否されていたのですが、血まみれの賢治を見た由香は拒まず、その夜2人は結ばれました。
翌朝、賢治は大金を由香の家に残し、警察に出頭したのです。


14年後2019年。
長期服役を終え、賢治は町に帰ってきました。
昔のヤクザ社会なら「組の幹部をかばって長期刑をつとめあげた」組員は恩賞として幹部待遇で迎えられるのが恒例でした。


しかし世は令和、時代は変わったのです。


柴咲組は侠葉会との抗争に敗れ、締め付けが厳しいこともあって数名の構成員しかいなくなっていました。
まだやり直しのきく若手がどんどん組を抜け、もうヤクザ以外やれない年寄りしか残っていません。
かつて夜の町を支配したヤクザのシノギは、シラスの密漁になっています。


ただ落ちぶれただけではありません。
新たな条例が制定され、ヤクザは銀行口座を作れず家も借りられず、携帯1つ自分では契約できなくなっていたのです。
服役中に自分から人権がなくなっていたことを知った賢治をさらなるショックが襲います。


かつてヤクザを「男を極める道」と豪語していた若頭の中村がシャブの取引に手を出していたのです。
賢治は兄貴と慕う中村が自分の父と同じシャブ中毒になっていないか心配するのですが、中村はばっちりシャブ漬けになっていました。

 

 

【ヤクザに人権はない】


舎弟の細野も組を抜け、堅気になっていました。
今は妻子を養う身の細野はヤクザを抜けてからの地獄の5年間(ろくに仕事にもつけない)について語り、賢治と距離を取りたがります。


キャバ嬢の由香を探し出して会いに行くと、役所で働いていました。
由香も賢治と距離を取りたがります。
なぜなら由香は14年前のあの夜に賢治の子を妊娠しており、今はシングルマザーとして娘を育てているから、ヤクザと関わりたくないのです。


兄貴と慕ってくれた細野や愛する由香から拒絶され、賢治はヤクザを取り巻く状況が以前と決定的に変わってしまったことを思い知りました。


いっぽう、ヤクザが落ちぶれたなかで勢力を伸ばした組織があります。
いわゆる半グレの若いチンピラたちです。
かつて行きつけにしていた食堂の女将の息子である翼も躍動するチンピラになっていました。


翼は「舎弟の仇を討って刑務所に行った」賢治を尊敬しており、なにかと力になろうとしてくれます。
じつは、死んだ翼の父は柴咲組の組員で、昔の抗争のときに侠葉会の加藤に殺されたのですが、そのことをまだ翼は知りません。


辛い状況のなか、病床の柴咲の見舞いに行くと、『親父』は「おまえならまだやり直せる。組を抜けろ」と親身になって忠告してくれました。
敬愛する親父からの後押しで決断した賢治は、組を抜け、由香と娘のところへ転がりこみます。
細野から産廃処理場の仕事を紹介してもらい、働き始めました。
5年ルールがあるのに、細野が社長を説得してくれたからです。


職を得て、新しい家族を手に入れて、第2の人生は順調なスタートを切ったかのように見えました。
しかし、現実は非情でした。

 

 

【ヤクザに人生はない】


職場のバカな若者がツイッターに何気なく賢治たちのことを投稿してしまったため、問題が発生します。
元ヤクザを雇っていることを知ったネットの連中が、職場に苦情を入れまくったのです。
結果、賢治ばかりか、みそぎを済ませたはずの細野までなぜかクビになってしまいました。


影響は由香の職場である役所にも波及します。
由香は賢治と無関係だと主張しましたが、体面を重んじる役所の上司にクビにされてしまいました。
由香の娘も学校でこのことが話題になって孤立するはめに……。


職を失って帰宅した賢治に由香が「お願いだから出て行ってください!」と土下座して頼み込みました。
もはやすべてを失い、行くあてもなくいつもの食堂に立ち寄ったとき、翼が「仕事を回すよ」と言ってくれましたが、賢治は断ります。
翼に迷惑をかけることを恐れたのでしょうか。


賢治はこのとき「翼が自分の父を殺した相手に復讐しようとしている」と知りました。
そして翼はすでにその相手が加藤だと知っているようなのです。
すべてを失った賢治は、ある決意をかためました。
由香の留守電に別れのメッセージを入れたあと、金属バットを片手に加藤のもとへ赴きます。


賢治は子どもの頃の翼に「俺たちのようにはなるなよ」と忠告していたのですが、「このままだと翼は自分と同じ人殺しになって刑務所行きになってしまう」と思ったのでしょうか。
他人を不幸にしかできなかった自分の人生へのケジメをつけようとしたのでしょうか。


とにかく、会食中の加藤の頭をボコボコに殴りまくって、殺しました。
加藤とべったり癒着して柴咲組凋落の一因を作りやがった刑事の大迫の頭もついでにかち割っておきました。
加藤を殺しにきた翼が目撃したのは、2人の死体だったのです。


現場から逃走して埠頭で佇んでいた賢治のもとに、謎の人物が現れてドスでめった刺しにしました。
賢治を刺したのはなんと細野です。
細野は賢治に仕事を紹介したせいで職を失い、妻子も失ったのです。

 

とはいえ今さら賢治を殺しても仕事も妻子も帰ってきません。
むしろ殺人犯として逮捕され、賢治と同じく元ヤクザの人殺しになるだけなうえに、出所する頃には細野は還暦近いでしょう。
メリットは皆無、デメリットしかありません。
しかし、そういうリスクリターンを考えられる人間なら最初から犯罪者になんかならないのです。


「兄貴、あんたさえ帰ってこなければ!」とものすごい形相で泣く細野に「ごめんな」と告げて、賢治は海に落ちて死にました。

後日、賢治が死んだ埠頭で翼が花を手向けています。
最後まで賢治を見放さなかったのは翼だけであり、賢治はその翼が自分と同じ道をたどらないように加藤を殺したのです。

精神的な兄弟を助けるために、自分の人生を捨てたのです。
それが翼にはわかっているだけに、孤独に死んでいった賢治を弔っているのでしょう。


埠頭からの帰り際、翼は賢治の娘と出会います。
「お父さんってどんな人だったの?」
その言葉で賢治に娘がいたことを知った翼は涙をにじませます。
賢治が天涯孤独ではなかったことを知ったからか、敬愛したケン兄の思い出を話せるからか、わかりません。
おしまい。

 

 

【まとめ】

 

時代によるヤクザへの世間の目の変遷がわかりやすい度☆☆☆☆☆
2005年では入れ墨だらけで堂々と銭湯に入ってましたけど、2019年では無理でしょう。
やたらと銭湯や温泉が入れ墨に厳しくなったおかげで、文化の違う外国人のタトゥーまで問題視され、新たな外国人差別が生まれたほどです。
「銀行口座を作れない」とか「家が借りられない」とかは聞いたことがあったんですが、「やめても5年間人権がない」とは知りませんでした。
その5年を過ぎても細野は許されなかったんですけど……。

 

感情移入してしまった度☆☆☆☆☆
ふだんヤクザ、マフィア、チンピラを主役にしたムービーは、基本的に「オラ悪人め、とっとと捕まるか撃たれろよ」と鼻ホジしながら観るのですが、この映画はそうはいきませんでした。
(たぶん)学もスキルも頼れる家族もない賢治たちがヤクザにスカウトされる過程やその後の報復から服役などの流れが自然で、感情移入しやすかったです。

 

序盤は全員老けすぎ度☆☆☆☆☆
由香に「学生なのに老けすぎ」と賢治が突っ込んでいましたが、おまえもだよ(笑)

 

時代が変わったことで消滅した職業は歴史上たくさんありますが、ヤクザという職業も今日本から消滅していく過程にあるんだな~と思いました。

あと、川山の悪役っぷりがかっこよかったです。
以上です。